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真夜中。とうとう一琉の不満は爆発した。


ここのところ、一琉を避け続けてて夜も別々に寝てた。一琉にしてみたら、オレのそんな態度の理由なんて解らない。
でもオレはその理由を一琉に説明できないし、聞かれたって絶対に答えられない。
抱き寄せようとする腕を強烈に拒否するオレに大きくため息をついてみせて、一琉はベットに座り込んだ。

「何隠してるの？何でなんにも言ってくれないわけ？」
ちょっと強めの語気が”イライラ”を感じさせる。それでも黙ってるオレをムリヤリ引き寄せて、一琉はキスしようとしてきた。
オレはそんな一琉の腕を振り払って、キッと睨みつけた。


「やだ！触んなって言ってるだろ！お前しつこい！」
「―― なんで？どうしてなの？理由も話さずに、そんな態度はないでしょ？」
「イヤなもんはイヤなんだってば！とにかく傍に寄るな！」
「んな風に言われて、ハイ解りましたって納得すると思ってるの？ちゃんとこっち見て話しなよ！」

―― 話せるわけない。理由なんて、言えるわけない。

『お前の将来と引き換えに、オレは有村に抱かれる事にした』

なんて、言えるわけない―― …


何にも言えなくて、ただ黙り込んでる俺に向かって、一琉は驚くような言葉を口にした。


「―― 有村先輩と…何かあったの？…なんで―― ホテルに一緒に行ったの―― ？」
「―― ！お前…知って……」

やっぱり一琉は知ってた。きっと本店の誰かから聞いたんだろう。
悲しそうな目をして、黙ってオレを眺めてから、髪を撫でてきた。
「―― 何があっても、怒らないから……ちゃんと話して…」


そんな風に言われたらどうしようもなくなって、喉もとまで本音がこみ上げてきた。
有村に、ムリヤリ抱かれた事。
ヨリを戻すのと引き換えに、一琉を課長補佐にしてやるって言われた事。


オレを選んで、キャリアになるのを諦めて欲しい―― …っていう小さな願い事。

出来る事なら。
それを全部吐き出して、言ってしまいたい。


”一生、そばにいて欲しい”



でも、それは言わないって決めた。
そうじゃなくて、　”一琉のためになる未来”　を選ぶ事に決めたんだ。
だから―― …それは…言えない……




どうして

いつも一番好きになったものは

自分のものにならないんだろう




「……有村と……寝た」
ボソリと言うオレの声に、ビクリと反応する一琉の身体。髪を撫でていた指がピクンと動いた。

「…ヨリ…戻そうって言われた―― ……」



黙ったままの一琉を見上げて、オレは自分の口から、これ以上ない嘘を吐いた。

「オレは―― お前を有村の代わりにしてただけ……あいつみたいに抱いてくれる男なら、誰でも良かった―― 」







「―― …そう……」
一琉は怒ったりしなかった。怒りはしなかったけど、ものすごく悲しそうな顔をした。
「解った……もう…いいよ…」


ふらりと立ち上がると、一琉は部屋を出て行く。オレはしばらく動けなくて、ベットの上で固まってた。



キィ…という玄関のドアの音が聞こえて、ハッとするオレ。
バタンとドアが閉まって、ぼんやりしていた意識が戻ってきた。


―― オレ…バカだ……こんなコトしたって、一琉は絶対喜ばないのに―― …


あんな悲しそうな顔をするとは思わなかった。もっと、殴るくらい怒ってくれた方が良かった。自分が放かり出されるくらいに罵倒された方がマシだった。
一琉のためなんて思い込んでたけど、結局一琉をものすごく傷つけてしまった事をオレは今始めて気がついた。


「―― 探しに…行かなくちゃ……」




外に出たら、叩きつけるような雨が降っていた。
一琉がドコに行ったかなんて解らないのに、オレは街中をただただ歩き回って、その姿を探した――

どのくらい歩いたのか、全然記憶がない。
雨に降られて、歩くうちに身体がだるくなってきて、頭がぼんやりしてきた。




―― やば……吐きそ…
ものすごく気分が悪い。足もフラフラして来て、ちゃんと歩けなくなってきた。
ふっと見上げた看板に見覚えがあって、オレはその場所に向かった。
なんとか辿り着いたマンションのエレベーターに乗ったら、もう立ってられないくらいに意識が遠のいた。
目的のフロアに着いたと知らせる音が耳に届いて、オレの身体は条件反射みたいに動き出す。
「―― ７０……どこ…だっけ…」
しばらく来てなかったから、記憶があんまりないけどとりあえず、多分ソコだと思われるドアのインターホンを勢いで押してみた…


「―― はい……って……え？…涼―― ？！」
その声を聞いたら、一気に力が抜けた。開いたドアから見えた桐羽の顔をみたら、もう何も考えられなくなった。
「―― どうしたの？！こんな時間に……」
「何でもいいから……とりあえず…入れてくれ」
「―― いいけど……ねぇ…大丈…夫？！ちょ…すごい熱―― ！」
ドアから中に入ろうとして、桐羽の腕が自分に伸びてきて―― …







それから
どうなったのか解らない


それきり
頭が真っ白になって、オレの記憶は途切れた








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