どうして
いつも一番好きになったものは
自分のものにならないんだろう
■* Chap 27 ： divides(離別)
あれから半月。有村からはたまに電話が来るけど会いには行ってない。
あの日の事を考えると、自分でも嫌気がさしてきてもう何もする気が起こらない。
でも、一琉に話すわけにはいかないし、やつあたりもしたくないから、なんとなーく距離を置いてやり過ごしてるだけ…
―― そのうち…気がつくだろうけど…な
オレの態度があまりによそよそしいからきっと一琉も変に思ってるだろう。だけどオレに対して何も聞こうとはしてこない。
聞くなオーラを感じてるのかなんなのか…オレが黙ってると、あいつも同じように黙ってる。
「センパイ、今日は残業ですか？」
朝食の準備をしながら、一琉はいつもみたいにオレに聞いてきた。オレは新聞を読んだまま、ボソッと答える。
「…わかんね…気が向いたら、するかも」
「気が向いたら…って？」
「する元気があったら…するし…メンドかったら帰ってくる」
「そう…ですか」
ふーんという顔を見せて、一琉は食事を始めた。オレは新聞越しにそんな一琉を眺めながら、小さくため息をつく。
―― あーもう…っ…
有村が余計なことしなけりゃ、こんなに悩まずに済んだのに…
でも、一琉の為には、奴の条件をのまなきゃならない
このままの生活を続けたいって気持ちと、一琉をキャリア組に戻してやりたいって気持ちがぶつかって、またイライラ…
精神衛生上、こんな生活してるのも良くない…
―― ダメだ…やっぱ、一緒にいたら…何ともなんねー…
オレは部屋を出ることを考えてみる事にした。
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「センパイ？」
仕事中、ぼんやり考え事をしていたオレを、聖が心配そうに覗き込んできた。
「―― どうかしたんですか…？なんか、さっきから様子が変ですけど…」
「あ？いや何でもねー…」
くわえたままのタバコを指で遊びながら窓の外を眺める。聖は残りのジュースをすするとオレに言った。
「この前、有村先輩となにかあったんですか…？」
「…この前…って？」
「本店に呼び出されたって言ってたじゃないですか…あれから涼センパイ…何だかずっと変です。黙ってる事が多くなったし…」
オレを見上げながら、聖は泣きそうな顔をした。
「僕、この頃変な夢見るんです……一琉センパイが…いなくなっちゃう夢なんですけど……」
その言葉にオレはドキリとする。"いなくなっちゃう"事が現実に起こりえる…というかいなくなるのは確実なだけに、返す言葉がない。
聖の予知夢もまんざら侮れないなんて思いながら、オレは誤魔化し笑いを見せた。
「…んなことあるわけねーだろ。アイツは追い出されてもいなくなんねーよ」
笑いながらそういうオレをじっと見て、聖はしばらく黙っていた。
「…書類、片付けてきます…」
いつもだったら、そうですよねくらいの相槌はうつのに、今日は返事がない。オレが何かを隠していることを感づいてるのか、聖の表情は曇ったままだ。
机の上の書類をトントンと揃える聖を眺めながらオレは小さくため息をつく。
書類を持って事務所へ行こうとした聖と入れ違いに、部屋に一琉と香流が入ってきた。
「涼センパイ、今日は早いですね」
そういいながら一琉はオレの向かいに座って、いつも飲んでる缶コーヒーを開ける。それを一口飲んでから、オレにこう聞いてきた。
「センパイ、この間本店に行ったんですか？」
それを聞いて、ドキリとするオレ。その事を一琉には話していなかったから、なんて答えていいのか返事に迷う。
「―― …この前…？ああ…行ったかも…」
「…有村先輩と、何か話でも？」
一琉のその言葉に、ビックリしたような顔をしたのは隣にいた香流だった。
「別に…大した話じゃなかったと思うぜ…？何で？」
「そうですか…いや…別にいいんですけど」
カコンと缶が置かれる音。一琉は黙ったまま、オレをじーっと眺める。
オレもそんな一琉を目を細めて見返した。ここでひるんだらオレの負けだ。
「報告書…書いたのか？」
間が持たなくて、俺はいつもは言わないような仕事の話を切り出した。
「いつのですか」
「いつのって、今月のに決まってるだろ」
「まだです」
「じゃあ書いてこいよ。提出明日だぞ」
「解ってますよ、そんなの」
コーヒーを飲みながら、一琉はまだオレを疑うような目で見てる。いつもしないような仕事の話をしたから、余計怪しまれてるかもしれない。
「―― …」
不満そうな表情を見せて、一琉は何か言いかけた。その時…
「涼。ちょっと」
ドアのところから桐羽が顔を出してオレを呼んだ。オレは椅子から立ち上がって、ちらりと一琉を見てみる。
”絶対に何か隠してる”
そんな言葉を言いたげな一琉の顔。オレはそんな一琉から目を逸らして部屋を出た。
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