眠らない
眠ったら、またあの夢を見てしまうから
だから僕は眠らない
だから、
僕は夢を見ない
2st anniversary SS ： nightmare Ⅱ
* After floor * Side-ｈ |
暗いフロアに蒼いライト。
夢の中で見たのと全く同じ景色。
全く同じ雰囲気。
黒のレースがふんだんに使われたワンピに、ニーソックス。
くるくると巻いた髪が肩の下で揺れる。そんなカッコで、僕は店のフロアに立っていた。
はぐれないように、清人センパイのジャケットの背中を掴んだまま辺りを見回す。
「すごいヒトですね・・・・」
「…まぁな…この界隈じゃ、この店は一番人気だからな・・」
センパイはタバコに火をつけて、フロアを見回す。
「良く来るんですか？」
「あ？」
「この店」
「ああ、前はよく来てたけど最近来てねぇな…こんな混んでちゃ、楽しめないだろ？」
「…まぁ…確かに・・・」
センパイはそれでも、慣れた足取りで空いたテーブルに向かった。
―― え・・・・
背中を掴んでた僕の手をぐっと掴むと、そのまま繋ぐ。
たいしたことじゃないのに、それにドキドキしてしまう自分がイヤだ。でも、こんなカッコしてるから、余計に恥ずかしい。
赤くなった顔を解らない様に隠しながら、僕はセンパイに手を引かれて店の奥のテーブルへ進む。
「どうぞ」
センパイは店でお客さんにするみたいに、ヒラリと手のひらを返して僕に奥に座るように勧める。
ふわりと、スカートがソファに広がる。その感覚が何とも言えず、なんだか落ち着かない。
センパイはスカートをごそごそしている僕の隣に座って、腰を抱き寄せてきた。
「…ちょ・・・センパ…イっ…何すんですか…っ」
「シッ…こうしないと話が回りに聞こえる」
センパイは僕の髪を指で弄びながら、カウンターを見るように言った。
「あそこ、バーテンの向かいに座ってる女がいるだろ」
「―― んー…」
「赤いミニスカの」
「…ああ、すっごい美人ですね・・・」
「あれが売人のオンナらしい。」
「…オンナ？本人じゃなくて？」
「あの女は繋ぎ役で、商談が成立したらオンナが誘われる振りしてホテルに連れてく。そこで売人が待ってるって仕組みらしい」
「じゃあここでやり取りするわけじゃないんですか？」
「―― たぶんな。桐羽センパイの話じゃそうらしい」
僕の髪、正確にはつけ毛だけど、それに指を絡ませて、センパイはふーっと息をついた。
「今日はオンナがホテルに連れてくとこまで追って、ホテルで売人を確認したら終了。の予定だから」
「―― へ・・・？」
「行くのはどのラブホか解んねぇけど、ま、このカッコだから、入るのは全然問題ねぇしな」
センパイは僕のスカートのすそをちょっと摘んで、にやりと笑う。
「入るんですか？！」
「バーカ。入らなきゃ相手が解んねぇだろーが」
「そりゃ…そうですけど・・・」
センパイは何てことなくラブホへ入る宣言をしたけど、僕は平然としていられない。
だって。
「―― 僕…そういうところに行ったコトないんですけど・・・・」
ぼそりという僕を見て、センパイはへっ？という顔をする。
「―― そーなのか？」
「・・・・・はい・・・・」
そんな僕の態度を見て、何故かセンパイはにっこり笑った。
「―― じゃあ俺が初ラブホの相手？」
「…そういう言い方はやめてくれます？仕事でしょ？」
「まーね。そうなんだけど」
くだらないコトをなんだかんだと話しているうちに、頼んだドリンクが来た。
今日は特別に、仕事中だけど飲んでもいいらしい。僕はいつも店で飲んでいるオレンジ系のカクテルを頼んだ。
「わぁ！綺麗ですね！」
運ばれてきたカクテルに、僕は目を輝かせた。オシャレなグラスに、グラデーションになったカクテルが揺れてる。
センパイはそんな僕を困ったように笑って見た。
「まーな…こういう店じゃ、そんなの多いぜ」
「ふぅん」
「そうやって出された方が女の子は喜ぶだろ？だから男はまたこの店に来るって訳」
「―― ああ。なるほど」
そうやって説明されると、妙に納得。さらに清人センパイの説明だから、さらに納得してしまう。
「また連れて来てやろうか？」
僕の腰を引き寄せて、センパイは髪を撫でる。
「結構です。お断りします」
「ツレナイなぁ。んなコト言うなよ」
「もー…酔っ払ってるんですか？！ちゃんと仕事して下さい」
ドサクサ紛れにホッﾍﾟにキスしようとするセンパイの顔を手のひらで押し返して、僕はカウンターに視線を移す。
「…来ませんね・・・」
客になる相手がそろそろ来てもいい頃なのに、カウンターの女の所には誰も来ない。
「ちょっくら聞き込みしてくっか」
清人センパイは僕の頭を撫でて、片目をつぶると席を立つ。
「ナンパされねーように、気をつけろよ」
「されません！さっさと聞き込みしてきてくださいよ」
僕はそう言って怒ると、テーブルの上のグラスを取ってカクテルを一気に飲む。
センパイはそんな僕を見てくすっと笑うと、カウンターへ歩いていく。
「―― まいったなぁ」
こんな所、もし知り合いに見られたサイアクだ。
まぁ、こんなカッコでさらにメイクもしてるから、誰も僕だとは気がつかないだろうケド・・・
ふーっと息をつくと、僕はもう１杯カクテルを頼む。
それがくるのを待ちながら、カウンターのセンパイを眺めていた。
センパイは彼女になにやら話しかけながら、ちゃっかり隣に座っている。
さすがそういう事に手馴れてるだけあって、彼女もすぐにセンパイの話に乗ってきたみたいだ。
そこで、そのままセンパイは何か頼んで飲み始めた。
―― っていうか、僕はどーしたら・・・
このままココにいるのもなんだし、第一ヒトリでボックス席もおかしい気がする。
でも・・・
「カノジョ、ヒトリなの？」
頼んだカクテルを飲んでいた僕に声を掛けてくる誰かが・・・
「… いえ、あの・・・」
振り返って、違うんですと答えようとしたのに、その相手はソファに座り込んでくる。
「可愛いね。こんなトコでヒトリじゃ、危ないよ？」
「いや、あの、大丈夫なので・・・・」
―― もー、ほっとけよ
僕は思いっきり迷惑そうな顔をして見せた。見せたのに、向こうはそんなことお構いナシに話しかけてくる。
遊びなれた風なイケメンのその男は、僕の隣に座って距離を詰めてきた。
「よかったら、俺と遊ばない？」
「えっと、あの・・・」
―― 何て答えたらいいんだーー
連れが居ますといいたくても、センパイはカウンターのターゲットの彼女に思いっきり話しかけててこっちを見てない。
でも、この見てくれでヒトリで平気なんですって言ったって、信じてもらえない気がする。
「綺麗な顔してるなぁ…彼氏いないの？」
―― 居るわけないだろーー！僕は男だしっっ
と、心の中では思いっきり拒否示してるのに、僕は引きつり笑いしか返せない。
そんな僕に遊び人イケメンは―― ・・・
―― えええええ！ちょ、やめろーーーーー！！
いきなり抱き寄せられて、足を撫でられた。あんまり上まで触られると、銃を持ってるのがバレる。
「ちょ…あの、やめてくださ…い」
上ずった声でイケメンの身体を引き剥がそうとするけど、向こうは完全に誤解してて、逆に笑っている。
「あんまり遊びなれてないんだ？」
―― そうじゃなくってーー！根本的に違うからっっっ！！！
一番なりたくない事態に陥って、僕はもうパニくって、対処法が思い浮かばない。
こんなカッコだから、殴るわけにもいかないし、声を上げたら男だとばれてしまう。
「…あ！ヤダ・・・・・っ！」
ぐいっと腰を抱き寄せられて、スカートの中に手が入ってくる。そのまま顔を引き寄せられて――
―― もーダメ！どうしようどうしよう！清人センパイーーー！！
ぎゅっと目を瞑った瞬間。フロアに、ばらばらと撒き散らされる氷。
イケメンの肩から、オレンジのカクテルが零れてきてる―― ・・・
「―― すみません。その子の連れのものですが」
顔をあげると、イケメンの向こう側に清人センパイが見えた。
僕は固まってしまって、もう動けない。
「っ…テメー！何しやがる！」
「何しやがる、はこっちのセリフだ。人のオンナに勝手に触んなっつーの」
―― いやだから、僕は男ですし
イケメン相手にセンパイは本気モードで怒っているけど、どうも何か違う。
違うんだけど・・・・・
「―― 行くぞ」
「え・・・・」
センパイに手首を掴まれて、僕はそのままフロアから出口まで一気に歩く。
振り向くこともできなくて、イケメンもターゲットのオンナもどうなったか解らない。
店から出た階段を無言で上がっていくセンパイ。僕は引っ張られたまま、センパイの背中だけを見てた。
「センパイ！ねぇセンパイ！聞き込みは―― ・・・・」
「今日はもういい。客も来なさそうだし」
「でも！まだこんな時間だし。もうちょっと待てば―― 」
「そんな事、してられるか。お前があんな目にあってんのに、仕事なんかしてられる訳ないだろ」
「―― え・・・・」
きょとんとする僕を目を細めて見るセンパイ。
それからふいっと向こうを向いて、また僕の手を引っ張っていく。
+-------- + † + ----------+ +-------- + † + ----------+ +-------- + † + ----------+
夜の歓楽街のネオンに照らされて、僕とセンパイはどんどん歩く。
僕はセンパイがどこへ行こうとしてるか解らないまま、ついて行くしかない。
そのネオンが、さっきまでとは違う雰囲気のネオンになっても、センパイはまだ手首を放してくれなくて、僕は――
「セ…センパイ・・・ねぇ、帰らないの？」
センパイは黙ったまま、僕を引っ張っていくだけ。
そんな風に５分くらい歩いた時――
センパイはピンク色のネオンのドアが光る、なんともいえない玄関のビルへそのまま僕を連れて行く。
「センパイ？ここなんですか？」
僕が何を聞いても、センパイは答えない。ちらりとフロアの案内図を見上げて、センパイはそのままエレベーターに乗った。
最上階まで上がって、一番奥の部屋まで来たら、センパイはやっと口を開いた。
「もう仕事はおしまい。ホラ」
部屋のドアを開け、センパイは僕の背中を押す。
僕はもう何が何だか解らず、部屋に押し込まれた。
「―― ひゃっ！」
ひょいっとお姫様抱っこされた僕は、閉じたドアからそのまま、ベッドルームまでセンパイに運ばれる。
薄暗い照明で照らされた部屋はなんとも言えない雰囲気がする。
「うきゃ！」
センパイはそのまま、ベッドサイドまでくるとポイッと僕を放り出した。スプリングの衝撃で跳ねる、僕の身体。
「―― や…！ちょ・・・・セ…ンパイ・・・・！！」
―― ウソ・・・・どうなってるの―― ・・・・？
訳が解らないまま、僕の唇はセンパイに塞がれ、息ができない。
「…ん…ぅ・・・・」
こじ開けるように、舌で口の中をかき混ぜられて、心拍数が上がる。
「イヤ……っ・・・・センパイ…ダメ―― ・・・・」
舌が絡まる音が聞こえる。それだけでももうどうにかなりそうなのに、センパイの手は、僕のスカートをたくし上げて――
・・・
「―― あんなトコ見せられて、我慢するなんて…ムリだろ・・・」
センパイはそれだけいうと、首筋に舌を這わせた。そして、そのまま造作なく僕の胸元を開いていく。
「や…だぁ…センパイぃっ…ダメっ…や…めてぇ…っ・・・あ…ぁ・・っ」
ビクンと身体が跳ねる。
でもそれは、ベッドのスプリングのせいじゃなくて。
舌が、突起を舐め上げる音がする・・・・それだけじゃなくて、スカートの中の指も・・・・
「は…うんっ…清…人セ…ンパイ……おねが…い…も・・・ダメ・・・・っ・・・・」
―― 仕事中なのに、何でこんな所でこんなコト―― …
首を振ってイヤイヤとしてる僕に、センパイは薄く笑って聞いてきた。
「―― こんなに感じてるのに……？イヤなの・・・・・？」
「ちが…っ…感じてなんか―― 」
「…ウソツキだな・・・聖は・・・」
「や・・・・っ…あ！あ・あ・あ・ああん！！」
センパイの指が、僕のそこを滑る。
激しく、急き立てるように扱かれてどうしようもなくなって、僕は、もう声を上げることしかできない。
苦しくて、息が出来なくて。どうにかなってしまいそう。
こんなに苦しいのに、でも身体はもっと先を欲しがってて…
コレじゃ足りないって声が、どこかから聞こえてる・・・・
「は・ああぁぁっ…ん…ぁああ…っ・・・や…あぁあうん…っ！」
もっと――
もっと欲しい・・・・・
また―― ・・・・・
あの夜の記憶が蘇ってくる。
でもこれは
夢じゃない・・・・・・
「セ…ンパイ……っ……」
もう、ダメ・・・・・
弾けた意識と身体に絆されて、僕はずっと我慢してたことを思わず口走ってしまう。
「…も……っと・・・・・」
「―― ん…？」
センパイは、僕が言おうとしてること、もうきっと解ってるハズだ。
聞かなくても解るハズなのに、イジワルに笑って、僕に言わせようとする。
「…もっと・・なに・・・？」
―― センパイのバカ・・・・・
そう思いながら、僕はぎゅっとセンパイに抱きついた。
「―― ・・・・もっ…と・・・・・欲しい・・・・・」
それから先は、もう仕事のコトなんて一切思い出さなかった。
あの夜よりも、もっと強烈に身体に刻み込まれていく感覚に、僕は自分の感情がなんなのかを思い知らされてしまう。
「あぁ…っ…はぁっ…あっあっあ・あ・あ・ぁぁ・・・ん…やぁっ・・・ひぁあぁあん！！」
まるで自分じゃないみたいに壊れそうに声を上げて、何度もセンパイの名前を呼んだ。
「セ…ンパイ・・・・清人センパ…イ・・・・」
「ん…？」
「…キス―― して・・・・」
ふっと、目の前で笑うセンパイ。
それが夢じゃないと確認したくて、僕はキスを強請る。
そんな僕にセンパイは、溶けるくらいに深いキスをしてくれる。
「―― すごい…可愛い―― …大好きだよ・・・・」
センパイの声が、耳の奥に響く。
また眠れなくなるとわかってるのに、僕は、もっと欲しいと繰り返す―― ・・・
本当は
解らない方がよかったような気がするけど・・・・・
でも
もうどうしようもない・・・・
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「あーあ・・・仕事し損ねた・・・・」
うとうととしている僕の頭を撫でて、センパイはふーっとため息をついた。
「―― え・・・・？」
「ゼッタイ裏取ってきてくれって桐羽センパイに頼まれたのに…・・・・」
「な・・・・」
そんな重要任務だったのか？！
僕は眠気も吹っ飛んで、ベッドから起き上がる。
「なんでこんなことしてるんですか！調べに行かないと―― 」
目を大きくして叫ぶ僕に、センパイはくすっと笑って答えた。
「ダメな気がしてたけど、ダメでしたー」
「は？」
「お前が着替えてきたの見たら、あんまり可愛すぎてもう仕事なんてしてらんねーって思っちゃって。他の男に襲われてるのみたら、我慢できなくなった」
「―― なにそれ・・・」
起き上がって、座り込んでる僕のひざに頭を乗せて、センパイはゆるく笑う。
「ずっと―― こうしたいって思ってたから・・・」
「―― なに…を・・・？」
「…こうやって、もう一回抱きたいって・・・あの夜から、ずっと思ってた」
「…セ…ンパイ・・・・」
「―― 聖・・・」
下から、センパイの腕が僕の首を引き寄せた。
そのままキスして、僕はまたセンパイに取り込まれていく・・・・
+-------- + † + ----------+ +-------- + † + ----------+ +-------- + † + ----------+
「ふぅん」
桐羽センパイは僕の報告書を眺めて、目を細めた。
―― ああー、怒られる・・・・
そう思った僕に、センパイは・・・・
「それじゃ仕方ないね。引き続きこの担当は香流クンと聖でやってもらうから。いい？」
「ちょ、待ってください！べつに２人でなくても―― 」
「ダメだよ。ホテルでの現場を押さえてもらうまでは、２人でやってくれなきゃ」
「…そ、そんな。じゃあ何ですか？また僕は―― 」
「当然。張り込みはカップルでしてもらうよ？でなきゃ最後まで尾行できないでしょ」
「そんなぁ・・・・・・」
ガッカリしながら、僕は報告書を受け取る。
こんなことなら、一度でばっちり終わらせておけばよかったのに。
そう思いながらも、僕は――
…またしてもいいかも・・・・・
なんて思ってしまうのだ。
センパイが、あんな風に大事にしてくれるなら―― ・・・・
―― ダメだ・・・・もう麻痺してるかも・・・・
そう思いながら僕は、次はどんな服がいいかとか考えている自分のことがおかしくてちょっと笑ってしまうのだった。。
2st anniversary SS：nightmare Ⅱ*Side-h
END
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