眠らない
眠ったら、またあの夢を見てしまうから

だから僕は眠らない

だから、
僕は夢を見ない

2st anniversary　SS　：　　　nightmare �U *　before floor　*　Side-ｈ

暗いフロアに蒼いライト。
妙な熱気。
重なるヒトの声とジャズのような音楽。それから、グラスの音。



僕はどうしてココに居るんだろ。
よく解らないけど。


目の前では、清人センパイが何か飲んでて、隣ではすごく綺麗な女のヒトが笑ってる。
「行こうか」
センパイは彼女の髪をさらりと撫でると、フッと小さく笑う。
彼女はそれを見て、軽く目を伏せた。

２人はそのまま立ち上がると、フロアの隅へ移動する。
僕は席に座ったまま、２人がどうするのかを見ていた。



薄暗いフロアの隅、２人は抱き合ってキスを始めた。
センパイの指が、彼女の背中から腰へと滑る。

そこから２人がどうするか、見たくないのに、僕は視線がはずすことができない。

彼女のドレスの肩のストラップが滑り落ちて、それから―― ・・・・・


「―― やめて！！」


叫ぶ僕の声。
どうして叫んでるのか解らない。でも、その声は誰にも聞こえてないみたいだ。


センパイの唇が彼女の首筋を這っていく。薄く開いた彼女の唇は、淫らに動いて・・・

「―― 嫌っ・・・・センパイっ―― ・・・どうして―― ・・・・・」


どうして、僕はこんな気持ちになってるんだろう
自分でも解らない

見えているものが、次第に滲む。
抱き合っている２人の影も、だんだん滲んで見えなくなる。

どうして？
どうして僕は泣いてるんだろ―― ・・・・・・









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「―― ・・・・・・・あ・・・・・・？」


目をあけると、いつもの天井が見える。
仕事から帰ってきて、お風呂に入って、缶チューハイを飲んで・・・・
「寝ちゃったのか…」
ふぅ、とため息をついて、僕はテーブルの上に放かってある雑誌を揃える。

―― にしても、変な夢・・・・

清人センパイがクラブで女の子とイチャイチャしてるのを見て、なんで僕が泣かなきゃならないのか。
そもそも、それを見てムカつく自分が解らない。
そんなのセンパイの勝手だし、僕にはそんな趣味は無い。



無いはずだ。



たぶん。




「―― もーっ・・・・・・」
はーっと今度は長いため息をついて、僕は冷蔵庫へ向かう。
棚にあるビールを取って、それを一気に飲む。乾いた喉を、苦い液体が一気に抜けていく。



―― あれは一度だけのコトなんだから・・・・いつまでも気にする事じゃない・・・





背中を滑る、センパイの指―― ・・・・
身体中に広がる、甘い痛み・・・
息もできないくらいに苦しいのに、麻薬みたいにその感覚は自分の身体を支配していく・・・・

耳元で聞こえるセンパイの声・・・



『―― 可愛いよ・・・・・・好きだ―― ・・・・・』









忘れたいのに、こんな真夜中になると必ず思い出してしまう。
時々あの夜の夢を見て、目が覚めると胸が苦しくなる。



センパイはあれから、そんなことまるで無かったみたいに僕に接してきた。
だから僕も、何もなかった振りをして―― ・・・


「…なんなんだろ・・・・」


何もなかった振りなんかじゃなくても、なかった事にしてしまえばいいのに。


どうして、それができないんだろ・・・
またぐるぐる考え始めたら、僕は知らないうちに眠ってしまった。










+-------- + † + ----------+ +-------- + † + ----------+ +-------- + † + ----------+







「センパイと、ですか？」
無表情で答える僕に、清人センパイは悲しそうな顔をする。

「なんでそんな無反応かなー」
「なんで反応しなきゃいけないんですか」
手元にあった書類をトントンと揃えながら、僕はセンパイをちらりと見上げた。
「―― どうしても行かなきゃいけないんですか？」
「そんなにイヤか」
「嫌です」
「…即答かい」

涼センパイと行くならともかく、清人センパイと捜査に行くなんて僕にはまだ無理だ。
涼センパイは僕に気を使ってくれてるのか、あんまりキツイ捜査場にはなるべく僕が行かなくてもいいようにしてくれてる。
でも清人センパイはきっとそんなの無理だし、どっちかっていうとセンパイはそういう手合いの捜査が多いのだ。
一琉センパイでさえ、たまに参ってしまうというくらいだから、僕なんかが行ったら――

「大丈夫だって。今日の捜査は簡単だから。ホラ」

そう言ってセンパイが見せてくれた資料を僕はまた無表情で受け取る。
「 クラブへの潜入捜査・・・？」
「そう。このごろ結構はやってるクラブらしいぜ？毎週決まった曜日になると、売人が来るって噂があるんだと」
「 一琉センパイが帰ってきてからじゃダメなんですか？」
「うーん・・・いいんだけどさ、どっちかっていうと、聖の方が都合がいいんだけどねー」

「…都合？」

清人センパイは僕を見下ろしてニコッと笑った。
「俺と一琉が２人で行くよりも、捜査しやすい作戦があんだよなー」
センパイはそう言って、人差し指を唇に当てて考えるそぶりを見せる。それからちらりと僕を見て・・・

「聖、コレ着てみ」
用意したように、センパイがそこにあった紙袋から取り出したのは――


「はぁ？！ゼッタイ嫌ですっ！！！！」


ゴスロリ風のヒラヒラな服。センパイは嬉しそうにソックスと靴まで取り出す。
「お前だったらコレ着れるじゃん？だからコレ着て、俺とクラブに行ってくんないかな〜って」
「なんでなんですか！別にこんなん着なくたって行けるじゃないですか！」
「んー、でもさ、女の子連れで行った方が仕事っぽくないだろ。な、いーじゃん」
「イヤだって言ってるじゃないですか！いくら仕事でも―― ・・・・」


「そーお？似合うと思うけどなぁー」

バン！と机を叩いた僕の後ろから声が聞こえた。
その声は―― ・・・


「―― き…桐羽センパ…イ」
僕は引きつった顔で、桐羽センパイを見る。センパイはいつもの優雅な微笑で僕を見る。
「その服ね、僕の見立てなんだよ。聖ならきっと似合うと思って」
「―― ていうか、僕は男ですが」
「いーのいーの。本当は涼に頼もうと思ってたんだけど、涼じゃ仕草がイマイチなんだよねー。だから聖に」
「…そんな理由成立するんですか・・・」
「するする。着てみたら？似合うよ」
僕はげんなりした顔でその服を手に取る。とって眺めて、ふと嫌なことを思いつく。
「クラブで女の子に間違えられてナンパとかされたらどーすんですか」
「大丈夫。香流クンが一緒に行けば平気だから。ね」
桐羽センパイの頼みようから、けっこう大きなヤマなんだと感じた僕は、仕方なくその頼みを聞くことにする。
「―― じゃあ…着替えてきます・・・・・」






「―― すげぇ…」
清人センパイはすごくビックリした顔で僕を見る。いつもあんまり感情が出ない人なのに、めずらしい。
僕はもそもそする袖口を直しながら、センパイをジロリと見てみる。
「なんですか？何がすげぇ、なんですか」
「…いや、別に・・・・たいしたことじゃない…けど」
センパイはそういいながら、タバコを取り出すと火をつける。
「銃は」
「持ちましたよ。ホラ」
造作なくスカートをめくり上げて、僕は太ももに止めたホルスターに入った銃を見せた。
「桐羽センパイがやってくれました」
なんでそんなものを持ってるのかわからなかったけど、桐羽センパイはドラマで見るような、美人刑事がしてる足ホルスターを持っていた。
そこまでしなくてもと思ったけど、まぁいい。

清人センパイはしばらくタバコを持ったまま、僕の足を眺めていた。
「―― センパイ？」
「あ、ああ。持ってんならいーや」
「はい」


準備の整った僕は、桐羽センパイとゴスロリスタイルで捜査に向かうのだった。








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