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　■*　　Chap 29　：　Necessity(必要) 　　


「マジですか？！戸倉先輩が、課長？！」
その声を聞いた瞬間、オレのカラダは固くなった。


「―― い…ちる…？」

ウソ・・・・・・・



オレのそんな反応を楽しむみたいに、有村はくすっと笑う。
「―― 無理やりしたいっていう、理由が解った・・・・？」
そんな有村の顔を、オレは信じられないって顔で見返す。っていうか、こんなの拷問と同じだ。

「―― お前の考えてる事は、やっぱ解んねぇ・・・も、離せ…」
自分の体を抱いている有村の腕をはがそうと、両手でつかむ。でも、有村の腕はびくともしなくて、余計にオレのカラダを締め付けてくる。
「…いいだろ？こういう演出も。なかなか体験できないしな」
「んな体験…したくねー…って・・やめ・・・・・！んーっ」
逃げようとするオレに無理やりキスして、有村は一気に服を脱がせる。
慣れた手つきでオレの弱いところを探り当てると、ソコばっかり責めてくる…
「…ん…んっ！イヤ…ぁっ…！やっ…あぅ…っ…ふぁぁぁ…っ」


こんな風に有村に悦ばされてる最中にも、隣の会議室から一琉の声が聞こえる。
その声を聞きながら、オレは有村に身体中を弄ばれていく・・・・
「…どんな感じだ？年下の恋人の声を聞きながら、昔の男に抱かれるってのは」
「…お前っ……ぜってーおかしい…っ…こんな事して、何の―― あ！あぁぁっ！」

ちょっとだけ残っている正常な意識で反抗するオレに有村はこう言った。
「こうやって有栖川の声を聞きながらでも、お前は俺に抱かれて感じてるだろ…それを確かめたかったのさ」
そういうと、有村はオレの中に入り込んでくる。

「ん…！んんんー！あは…ぁん！」
カラダを弓なりにしならせて喘ぐオレにキスして、有村は言った。
「有栖川にどこまで見せたか知らないが・・・俺がそれで諦めると思ったら甘いぜ…？」
「・・・・・・え…・・・な…に？」

「俺は絶対にお前を離さない。お前だって有栖川が俺に似てたから、抱かれたんだろ―― ？」


ズキンと胸が痛くなった。
違うけど、違わない。


オレが一琉に惹かれたのは、それもあるから……





「違う…一琉は・・・・お前と一緒じゃ・・・・ひぁっ！んぁぁぁ！」
言い返そうとするオレを有村は抵抗できなくしていく。


―― 違うのに―― ・・・・・・
オレが一琉を好きになったのは…一琉に抱かれたいと思うのは…
有村に似てるからじゃない・……
最初はそうだったかもしれないけど、今はそうじゃないってちゃんと言える。
隣の部屋にいる一琉の声が聞こえる。

―― もし、こんな所一琉が見たら、どう思うんだろ・・・・・・
そう思ったら悲しくて、涙が出てきた・・・・・・


悲しくて、声も出ない。そんな状態で、オレは有村にされるまま、それからしばらく抱かれ続けた・・・・・・





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好き放題されるだけされて、あれから１時間以上有村に拘束された。
何も考えられないくらいに疲れた体を引きずって、何となくフラフラと歩いてきたら・・・・
「―― あ・・・・・」
意識しないで歩いたせいで、自分の部屋に戻ってきてしまった。
ここに戻ったって、眠れないのに・・・・


でももう疲れていて、桐羽の部屋まで行く気力もない。
―― しばらく休むだけなら・・・いっか・・・
そう思ってオレはそのまま部屋の鍵を開けた。いつもどおりの部屋。
キレイに掃除されてて、居なくなるときと何も変わらない。
リビングを通り過ぎて、何の考えもなしに入ったのは一琉の部屋。こうなるまでは毎晩２人で眠っていたベッドに、オレはそのまま倒れこんだ。



―― やっぱり…ダメなのかも・・・
絶対に戻らないと決めたのに、やっぱりダメだ。
こうやって、毎晩愛されたベッドにいるだけで身体が熱くなってくる…

「…い…ちる……」
呼びなれた名前を呟くと、胸がキュッとなった。
そのまま目を閉じて、一琉に抱かれてるときの事を思い出して―― ・・・・・・












疲れていたせいか、知らない間に寝込んでしまってたらしい。
「―― …あ・・・・・・」
目を開けると、そこに見慣れた背中が見えた。



「―― …起きた…？」
いつも見てた、黒い瞳。
ちょっと困ったように笑って、一琉はオレを見てる。
帰ってきて、どうしていいか解らなかったのだろう。オレが寝ている隣でずっと座っていたみたいだ。
何か言わなくちゃと思って、口を開くけど上手く言葉が出ない。出なくて、慌てて起きようとしたオレの髪に、一琉の指が触れる。

「―― いいよ…大丈夫・・・・疲れてるみたいだから・・・・」
有村に散々遊ばれたせいで、本当に体がだるい。
でも、この状態は・・・・・・



「…ごめ…ん…オレ…」

帰るわ、と言い掛けたオレのカラダをふわりと包む一琉の腕。
オレはその腕に取り込まれて、動けない。でも、怖いくらい安心してて、動きたくなくなってくる。
「有村先輩に、ひどい事されてない・・・・・？」
髪を撫でながら、一琉はオレに怒りもしないでそう聞いてくる。
実際にはひどい事されてて答えられないオレに、そのまま続ける一琉。



「ごめんね・・・・・俺が、こんなんだから・・・・」
一琉は、そう言ってオレをぎゅっと抱きしめてくれる。その意味が、痛いほど解って、オレはまた泣けてきてしまう…
「…ちが…う…一琉が…悪いんじゃない・・・・」
抱きしめてくれる一琉の胸にしがみついて、オレは小さな声で言う。



「有村と一琉は、全然違う・・・・・オレは・・・・・・・・・」
―― 一琉でなきゃ、ダメ・・・・
それを言ったら、こんな風に離れた意味がない。
オレは、一琉のところに戻っちゃ駄目なんだから―― ・・・・



「…センパイ……」
何にも言わないオレの頬を包んで、一琉はいつもみたいな笑い顔を見せる。
そしてそのままキスして―― …
「…抱い……て」
それは、オレの声で…
一琉はそんなオレに黙って微笑んで、またキスする。

さっき有村に抱かれたばっかりのカラダを一琉に抱かせるなんて、オレはサイテーかもしれない。
しれないけど、やっぱり無理だ。一琉無しじゃ、オレはどうにもならない。
身体の依存じゃなくてココロまで、完全に一琉に依存しちゃってる…
有村にあんな確かめられ方をされたせいで、逆にそれを思い知ってしまった。

「―― いいの…？」
一琉の確認の声に、ただ頷いて、オレはその背中に腕をまわす。
それで返事を確認したように、いつもよりも何倍も丁寧に、一琉はオレのカラダを抱く―― …
毎晩繰り返した行為とは比べものにならないくらいの快感に襲われて、オレは何度も気を失いかけた。
そのたびに一琉はオレを抱きしめて、意識を引き戻す・・・・



「……涼―― ・・・・・」
行為ももう限界の頃、耳元で小さく聞こえた一琉の声・・・。

「…絶対に…誰にも渡さないから―― 」

それは、抱いている最中のうわ言だったのか、それともわざとだったのか解らない。
そのまま一琉は寝入ってしまって、どっちだったのか聞けなかった。

でも――
その言葉で、オレはもう一琉から離れられないと悟った。
このまま有村のもので居たとしても、気持ちは一琉のものだ。



「―― 愛してる・・・・・・」
ホントに小さな声でそう囁いて、寝入っている一琉の頬にキスした。
起こさないように部屋から出ると、そのまま桐羽の部屋へと足を向ける。

―― どうしたら…いいんだろ・・・・・
気持ちと、したい事のバランスが上手く取れない。 一琉を好きなまま、このまま頑張れるか自信がない。
ないけどやらなくちゃ―…
うつむいてふうっと息をつくと、振りかえって一琉の眠る部屋を見上げた。
本当にしなきゃいけない覚悟は、もっと別なものかもしれない。

そんな事を考えながら、オレは部屋を後にした…。

Necessity
ＥＮＤ