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　■*　　Chap　16　：　　 Lovefortune （恋愛運） 　　


「…何怒ってるの？」
帰り道、一言も喋らないオレに一琉は小声で聞いてきた。
「別に」
つーんと横を向いたまま、そう答えるオレ。一琉は小さくため息をつくとしょうがないなぁと呟く。
「香奈ちゃんのコト？」
のっけからずばりと言い当てられてオレは答えようがない。思わず流れ出しそうな文句を押し込めて、何事もなかったように返事を返す。
「何の事言ってんだ。怒ってないって言ってるだろ」
「…だって。今日香奈ちゃんが来てた時、清人がセンパイに何か話してたから…変なコト言われたんじゃないかなーって……」
「言われてねぇよ何も」
「じゃあなんでそんなに素っ気無いの？おかしいじゃん」

―― おかしいにきまってんだろ。誰のせいだとおもってんだ
あまりに鈍感な一琉にガマンできなくなり、オレは思わず本音を言ってしまった。
「変なコトもなにも。大好きって言われて抱きつかれてチューされてたのはドコの誰だよ！それで何にもないなんて絶対言わせないからな」
一気にまくし立ててキッと自分を睨むオレを見て、一琉はしばらくきょとんとしていた。それからちょっとして、クスクス笑い出す。
「何笑ってんだお前はっ！」
「いやだって、センパイがあんまり真剣だから、おかしくて…」
「真剣じゃ悪ぃかよ！オレはめっちゃ怒ってんだからな！」
まだクスクス笑いながら、一琉は慣れた仕草でオレを抱き寄せる。歩道橋の上でぎゅっと抱きしめられて身動きも出来ない。
「離せアホ！何考えてんだ！」
「ちゃんと考えてますよ？涼センパイはホンットに可愛いなぁとか、キスしたいなぁ、とか」
そう言って笑うと一琉はそのままオレの唇を塞ぐ。伝わってくる熱と舌の感覚で、あんなに硬かったガードはすんなり解除されてしまった。

「―― は…ぁ…っ」
そのまま首筋にキスされて、思わず声が零れる。ダメなのに身体がいう事聞かない。
「…や…一琉…っ…ここじゃ…ダメ…」
シャツの隙間から指が入り込んできて、膨らんだ突起の上を滑る。そのまま、それを許してしまいそうな気分になってしまう自分が怖い。
「言い訳聞いてくれるなら、止めても良いよ？」
「聞く…っ…聞くから……帰ってから……」
「ふふ…帰ってからならしていいの？」
質問に答えないオレを一琉はゆるく笑って見つめる。髪を撫でるその手をきゅっと掴むと、そのままつないで部屋への道を歩いた。


部屋に着くなり、一琉はオレを背中から抱きしめて言い訳を始める。
「―― 聖？」
「うん。中学校の時好きだった初恋の人にそっくりだったんだってさ」

一琉の話は、聞けばなるほどと頷ける話だった。
彼女が超お気に入りだったのは実は一琉ではなくて聖だった。初恋の人そっくりな聖と話がしたくて店にくるものの、どうしても言い出せなかったらしい。で、たまたま相手をした一琉があまりに話しやすく、彼女は決心してその事を話した。それをきいた一琉は、彼女が聖と話せる様にセッティングをしてやったのだそうだ。
「次に来れるのが金曜だそうで、その日なら聖も出勤だし、ちょうど良いなと思って」
一琉はうんうんと頷きながら、オレの耳朶を噛む。それからニッと笑って顔を覗き込んできた。
「涼センパイは、俺が香奈ちゃんに気に入られてると思ったんでしょ？」
「違っ…だってさ、香流がそうやって―― …」
「でも、キスされてるトコ見て、ヤキモチ妬いてくれたんだよね？」
「―― う…っ…」
それは間違ってない。確かに俺は彼女にチューされている一琉をみて、ヤキモチを妬いて泣きそうになっていた。なってたけど、それは彼女が一琉のコトを好きなんだと思い込んでいたからで、事情が解っていれば、わざわざ妬いたりなんかしなかった。
それに―― …
「占いに、お前が浮気するって書いてあったしさ」
「――はぁ？ 」
オレの突拍子もない”ヤキモチ”の理由に一琉は首を傾げる。
「占いって？何の？」
「ルネ緋月とかいう絶対当たる占い師の占い特集に書いてあった。お前が浮気して、んでもって揉め事になるって」
半分すねたようなオレの声を聞きながら、一琉はプッと笑った。くくく、と笑いをかみ殺して、後ろからぎゅっと抱きしめてくる。
「自分しか信じてないって言ってる割に、占いとかは案外信じるんだ。でも、その占い当たってないよ」
「…何でそうやって言い切れるんだよ。解んないだろ？そんな事」
「解るに決まってるじゃん。俺が涼センパイ以外のことなんか、考える訳ないでしょ？」
自信たっぷりに言う一琉にもう何も言い返せない。よくそこまで言えるなと思うけど、言われた方としちゃ、気分は悪くない。

「ねぇセンパイ」
「ん？」
「いい？」
「…いいって、何が」
「…さっきの…続き」
してもいい？と消え入りそうな声と同時に、一琉はオレの身体をくるりと反転させる。そのまま吸い込まれるように唇を塞がれて、息も出来ない。

「…ぁ…ん…い…ちる…ぅ…ちょ…っと」
勢いでシャツを一気に剥ぎ取られる。玄関先でそんな風に扱われて、いつも以上に身体が反応してしまう。
「い…や…っ・あ！」
「ふふ…もうこんなになってる…こういうの、意外と好き？」
イジワルな声でオレにそんな質問をしながら、一番敏感な部分を指でつつっとなぞる。着ていたものはほとんど床に落ちてしまって、もう止められる状態じゃない。
自分の中心から聞こえてくる音に、ビクリと反応する身体と零れる声…。
「や！ダメ…ぇ！んあぁっ…はぁ…っ…もう・っ…ぁああん！イ…クぅ…っっ！」
声を聞きながら一琉はオレの一番いい所を探り当てて、ちょっぴり焦らしながら責めてくる。身体がふわりと浮く感覚に襲われて、頭の中で何かが弾ける音がする。
「ん…ぁ！いぃ…っ！…も…ぅ…ふぁあ…っ！ィ…っちゃ…う！」
中心からトロリと零れる蜜がついた指先をペロリと舐めて、一琉はクスッと笑う。
「…そんな良かった？もうイッちゃって…」
可愛い…といつもの様に囁きながら、一琉はオレを抱き上げてそのままバスルームへ連れて行く。
「よしっと…せっかくだから、シャワー浴びちゃいなよ。その間にご飯作っておくから」
「…ん…」
すっかり蕩けきった身体を引きずって、オレはカタンとバスルームの戸を開ける。開けながら、ちょっと考え込んでしまう。
―― こんなんで、いいのかな…
もう何回もこんなことしてるけど、いつもオレが満足してしまえばそれで終わり。一琉はそれでいいのかな…。
欲しいって言われれば、たぶんオレはきっとそれを受け入れちゃうと思う。っていうか、逆に言ってくれないからちょっと不安だったりもする。
上から降ってくる熱湯に打たれたまま、しばらくオレはそんな事を考えてぼんやりしていた。


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濡れた髪を拭きながら、リビングに戻ると飯の支度を終えた一琉がなにやら雑誌を真剣に読んでいた。
「何だそれ」
「これですか？俺がいつも気に入って読んでるファッション誌なんですけどね、ホラここ、今月の占い載ってるでしょ」
これ、と一琉が指差したのは『水瓶座の今月の恋愛運』だった。
『今月の恋愛運は絶好調。自分中心に地球が回ってるって思うくらいでも問題ナシ！』
って、そりゃ言い過ぎだろ。と思いながらオレはその文面を眺める。一琉はホラねという顔をしてオレを見た。
「恋人が浮気するかも、なんて一言も書いてないでしょ？だから今日センパイが見た占いは当たってませんよ」
「まぁそりゃ…占い師によって違うだろうしさ…別にオレだって頭っから信じてる訳じゃねぇよ」
テーブルの上のタバコを取りながら、オレは一琉の隣に座って雑誌を覗き込む。
「…お前のは？蟹座だったっけ…」
『恋人のワガママには怒らず付き合ってあげましょう　広い心が幸運をよびます』
「何だそれはっ」
「書いてある通りでしょ？センパイが怒ろうが暴れようが、俺はいつだって付き合ってあげてるじゃないですか」
むーっとするオレを見て、一琉はニコニコ笑う。その態度がムカついて殴りたくなるけれど、こんな占いを見た後じゃあげ足をとられるだけだから止めておく。
そんなオレに、一琉はぽそっと小声で言った。
「一応俺の事、”恋人”って思ってくれてるんだ」
「―― え…」
「だから、そんなに怒ってるんだよね？」
そんな事言われるまで考えたこともなかった。なんか今日はこんなコトばっかりだ。
意外と、オレって自分のコト解ってないのかも知れない。

「…そう思ってるよ。そうしたのはお前じゃん」
「うん…かもね？」
「かも、じゃなくてそうだろ」
オレはそういいながら、隣にいる一琉の膝の上に乗る。その唇にきゅっと自分の唇を押し当てて、さっき玄関でされたみたいなキスをした。クスッと笑う一琉の声は、オレがしようとしてる事をもう解ってるみたいだ。


「―― してあげる…」
「ご飯は？」
「…いらない…こっちのが欲しい…」
一琉の首筋を子猫みたいにペロリと舐めて、オレはゆっくりと唇を下へ移していく。
「…ん…ん・すごい…よ？」
「…まぁ…ね、だってセンパイ…さっきすごい色っぽかったから……あ…」
はぁっと零れる吐息。そこにキスを繰り返しながら深くしていくと、一琉は途切れそうな息をつないでオレの髪を撫でてくる。
「…ん…ぁ…イイ…よ…」
耳に届く濡れた声。その声を聞いていたら、自分まで濡れてきてしまいそう。
こうやってしてあげてるだけでも、すごく満たされてる気分になってなんだか不思議な感じがする。してもらうのもいいけど、こういうのもいいかも……
なんだか一琉のコトが可愛く思えて、すごく良くしてあげたくなってしまう。そう思いながら奥まで飲み込んでちゅっと吸い上げると、一琉の身体がピクリと反応した。

「センパ…イ……も…ダメ……っ…いい…？」
「ん…イイよ……」

ビクンビクンと波打つ感覚が、舌から伝わる。この瞬間が今まではちょっと苦手だったけど、一琉にしてあげてるときは何故かイヤじゃない。
ケホっと咳き込むオレの頬を包んで、一琉は唇をぬぐってくれる。
「ごめんね？大丈夫？」
「…ん…へいき…」
夕飯も食べずに、抱き合ってキスを繰り返す。欲しいって思わず言ってしまいそうな自分を抑えてぎゅっと抱きついたら、一琉は同じように抱き返してくれた。
―― 今はまだ、このままでもいい…　でもいつかちゃんと、欲しいって言ってくれたら―― …

心の中でそうやって願いながら、オレはもう一度一琉にキスをした。


Lovefortune

　END