■　　Chap2　：　　Interest(関心) 　　
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「腹減った…」
フラリと立ち上がったセンパイは、俺をちょいちょいと呼ぶ。
「メシ。作るからお前も食え」
「あ、じゃあ俺作りましょうか」
「ふむ。それもいいな。んじゃお前作れ。俺はビール飲む」
「いいですよ」
リビングにくっついたこじんまりとしたキッチンに行くと、きれいに道具が並んでいた。
「センパイ作る派なんですか？」
「…うん。だってコンビニの弁当とか、あんまうまくないじゃん？だから自分で作るかなー」
「へー。そうなんだ。ちょっと意外」
「何で。意外ってどーゆー意味だ」
「いやだって。センパイけっこう面倒くさがりじゃないですか。だからご飯なんか作らないかと思ってた」
「んなことねぇよ。…そだ、食事は当番制にしようぜ。俺とお前と交代で作んの。どう」
「ああ、それもいいですね。楽だし」
「よし。じゃあ決まり」
ニコニコと嬉しそうに笑う涼センパイを見ていると、なんだか幸せになってきた。偶然にしても、こんなコトはそうは起こらない。
―― これってやっぱ運命？
アホな事を考えながら、俺はありあわせのもので食事を完成させる。
「はいどうぞ」
「おお。やるじゃん」
並べられたおかずをみて、センパイはうーむと感心している。俺はふふふと笑い、箸を渡した。


まぁまぁ上手くできた夕飯を食い終わり、俺はセンパイにもらったビールを飲みながら壁にもたれてぼんやりしていた。皿洗いを終わったセンパイは、手を拭きながらリビングへ戻ってくるとソファへバフっと沈み込んだ。
「んーー。けっこう働いたな今日。何か疲れた…。」
残りのビールを飲み干しながら、センパイは俺の方をじーっと見た。
「一琉って、キレーな目してんなぁ…」
「はい…？」
「目。俺そういう目好きだよ。なんつーの？吸い込まれそうな目みたいな」
「…そうですか？そんな事言われたことないですけど…」
「へー。じゃあ俺が一番？」
「…なんですかね？」
―― ヤバイ…。なんだこの展開っっ。

心臓がバクバク音を立てている、というのはこういう状況を言うんだろう。

「 …え……」
はっと気づくと、目の前にセンパイの顔が。
しかも。
「…センパイ…？」
ゆっくりと、顎に触れるセンパイの指。その指はゆっくりと輪郭をなぞっていき、両手が頬を包む。
思わずその手首を掴みたくなるのを我慢して、俺はセンパイの顔をじっと見つめた。
「…どしたんですか…」
ただじっとこっちを見つめているその顔が、切なそうな表情なのを俺はちゃんと気づいてて。それがどういう事なのか、次のセンパイの言葉で何となく解ってしまった。


「…うん…。いや…お前ちょっと知り合いに似てるなって思って」
―― 知り合い…ね…。
きっとその知り合いは、人には話せない事情の知り合いなのだろう。
でなかったら、あんな表情はできないはずだ。でもその事は聞かずに、俺は話を切り替える事にした。
「俺のこと、気になります？」
涼センパイはちょっとびっくりした顔でこっちを見た。まさか俺がそんな事聞くなんて、思っていなかったのだろう。
数秒そんな表情でこっちを見ていたが、すぐにふっと顔を逸らしてソファの方へ行ってしまった。
クッションの隣にころんと転がっているアヒルのぬいぐるみを抱くと、センパイは元のように沈み込んだ。
「―― さあねぇ…。どーかなぁ？」
アヒルのぬいぐるみを抱いたまま、センパイはふふっと笑った。
「ビールまだ飲む？」
アヒルを俺にポイっと投げると、センパイは冷蔵庫へビールを取りに行く。

―― そのうちなるよ。絶対にね。
俺はそんな事を考えながら、小さな背中を眺めた。
その答えが解るのは、まだずっと先で。だけど。
あの切ない表情も忘れる事はできなくて。

そして俺は。
涼センパイという人を本当はまだ全然解ってなかったとこの後知る事になる…。



Interest.

END