「して…いい…のに…」
小さく聞こえるセンパイの声。そんなお願いされたら、もうガマンできない。
だけど…
―― このまましちゃったら、抑えが効かなくなりそう……すごい欲しい…けど…
自分の中でどっちを選ぶかぐるぐる葛藤しながら、俺はセンパイにキスした。
■* Chap 17 ： encounter（遭遇）
机の上には、風邪薬のドリンクのビンと一口だけかじってあるメロンパン。その前では、ハンドタオルで顔を覆ったままの聖が、涙目で座っている。
「…すびばせん……」
鼻をズーズーと鳴らしながら、ゴホゴホと咳き込む。
涼センパイはそれを見て、半分呆れ顔で聖にこう言った。
「お前今日はもういいから帰んな。その状態じゃ仕事なんかできやしねーって」
その言葉を聞いて聖はうーっと唸り声を上げる。その間にも咳き込んだり、鼻をすすったりで忙しい。
「センパイの言う通りだって。家に帰って大人しく寝て、早くカゼ治した方が賢いぞ？」
付け加えるように言う俺を聖はチラッと見て、グスっと鼻を鳴らす。
「でもぉ…清人センパイも休みって言うし…それでボクまで休んだら…」
申し訳なさそうに言う聖に、涼センパイは言い聞かせるように言った。
「休んだら、っていうかもう休んでるも同然だろ、お前のその状態。オレや一琉にもうつったらもっと大変なんだから、ちゃんと言うこと聞いとけ」
「……あい……」
そのまま机にバタッとうつ伏せる聖。俺とセンパイは、それを眺めて肩をすくめる。
「聖のことはもういいから、２人で行ってきて」
そういいながら部屋に入ってきたのは桐羽センパイだった。センパイは聖の隣に座って、持ってきた毛布をかけてやる。
「たまには２人で仕事もいいんじゃない？デートみたいで楽しそう」
ニコッと笑って言う桐羽センパイ。そんな桐羽センパイを見て、涼センパイはあからさまに不機嫌な顔をする。
「アホかお前。なーんでオレと一琉が２人して内定調査になんか行かなくちゃいけねーんだよ。１人で行ってくるっつーの」
ふーっと息をついて、涼センパイは今日聖と行く予定にしていた内定調査の資料をパラパラとめくる。
「フロアと確保経路の確認だけなんだから、すぐに済むって」
俺とは全く行く気がないようで、行くか？と聞くそぶりもない。俺はそんな涼センパイに横からこそっと言ってみる。
「…でも、俺も清人が居なくて１人じゃ困るんですけど」
そんな風に言う俺に涼センパイは冷たく言い放つ。
「はぁ？甘えた事言ってんじゃねぇよ。お前報告書溜めてんだろ？それに来月の確保計画だって立てなきゃなんないし。やる事いくらでもあんだろーが」
―― つ…冷たい…
たまにはいいか、とかそういう気持ちにはならないんだろーか…この人は…
俺はちょっと拗ねたような声で涼センパイに言い返した。
「そりゃ…ありますけど。でも俺涼センパイと外で仕事した事ないし、行ってみたっていいじゃないですか」
半分呆れ気味にきゅーっと細くなる涼センパイの目。そんなに嫌がらなくたっていいのに…
「…しょーがねぇな……」
行くぞ…と小さく言って、涼センパイは席を立つ。桐羽センパイはそれをふふふと笑って眺める。
俺はさっさと出て行く涼センパイの背中を追いかけて、部屋を出る。
「待ってくださいよセンパイ」
裏口を開けて出て行くセンパイの後ろについて、俺は閉まらないようにドアを押さえる。涼センパイは俺の方を全然見ずにそのままスタスタと歩いていってしまう。
「もーっ…別に俺とだっていいじゃないですか」
隣に並んでそういい始める俺を見上げて、センパイは小さな声で言い返す。
「イヤなんて、一言も言ってない」
「―― だって…１人で行くって…」
「桐羽の前で、一緒に行くか？なんて聞けるか」
ふいっと横を向いて、そんな事を言う涼センパイ。それって、もしかして…？
「…照れてるの？」
「誰が。ふざけんな」
「素直じゃないなぁ…ホントは１人で行く気なんてなかったんじゃないの？」
調子に乗ってそう言ってみる俺を、ジロリと見上げてくる涼センパイ。やば…殴られる？
「―― 昼間じゃなかったら殴ってるぞ」
握ったグーを俺に見せて、涼センパイはそれ以上何か言ったら殺す、という顔をした。
やっぱりさすがに仕事中は甘えてこないらしい。俺はそれ以上茶化したら本当に殴られそうな気がして、もうその話題に触れるのはやめにした。
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オフィスビルが立ち並ぶビジネス街。俺と涼センパイはその中でも少し古めな雑居ビル風の１０階建てビルのエレベーターに乗る。
「８階の中国雑貨輸入会社。概要はこんな感じ」
センパイは資料を俺に渡すと１つづつ上がっていくフロアのランプを眺める。
「エレベーターはこの１基だけ。でも非常階段が２本もあんだよな…このビル」
おかしな造りだろ、と涼センパイは迷惑そうに言う。確かに非常階段が２本もあっちゃ売人は逃げ放題だ。
「昔商業ビルだったんですかね、なんかいろんな事務所がごちゃごちゃ入ってるし」
渡された資料についている見取り図を眺めていたら、８階に到着した。俺たちは開いたドアから出るとその辺の会社員を装って廊下を歩く。
「通路の一番奥…エレベーターからは遠いけど、階段がすぐ横ですか…」
「わざとそういう物件をさがしたんだろ。普段でも非常階段から出入りできるようになってるみたいだからな」
目的の事務所の前を通り過ぎると、目の前に非常階段への入り口がある。事務所のドアの前では、中国人風の男が３人。手に下げた袋と箱をお互いに覗き込みながら話をしている。
｢ちょっと出てみますか」
「おう」
怪しまれないようにすっとその横を通り過ぎると、アルミ製のドアを押し開けた。
「なんか持ってましたね」
「ああ多分ブツだな。ま、でも今日は確保に来たわけじゃねぇし、逮捕状もねぇからな。よし、屋上行ってみっか」
センパイは手すりからひょいっと外を覗いて、上を見上げた。
「隣のビルに飛び移れそうだな。ホントいい環境だぜ」
そう言いながら涼センパイは上へカンカンと上がっていく。俺もその後をついていく。
「跳べますね。これは。」
屋上まで登って見てみると、隣のビルの屋上が見えた。気合を入れれば絶対に跳び移れそうだ。
「―― 屋上には逃がすなって事だな」
フンと笑うと涼センパイは持っていた資料をたたんでポケットに入れる。建物の割には案外広い屋上を1周し、周辺を確認すると俺たちは反対側の非常階段から降りる事にした。
さっき出てきた８階を過ぎて、6階に下りてきたその時。俺たちの目の前にエライ光景が飛び込んできた。
「……ぁ…ああぁ！ダメ…ぇ…はぁん！」
「…ん…すげ…締まってるよ…」
階段の手すりの所で、昼間っからカップルがその最中。俺と涼センパイは顔を見合わせ、しばらくそこで固まっていた。
若いＯＬのおねえさんは、外だって言うのにおかまいなしなカッコで相手の男の首にしがみ付いて声を上げる。
「ん…あぁぁぁん！もっと…ぉ！」
「―― 戻りましょ、向こう側の階段から降りればいいし」
俺は呆気に取られているセンパイの袖を引っ張って、屋上へ戻る。登りながら頭の中ではとんでもない考えがもやもやと広がってきて、どうしようもなくなっていく…
「あっちだっけ」
屋上に上がると、涼センパイはきょろきょろと見回して反対側の階段を探す。
俺はそんなセンパイの腕をぎゅっと引っ張った。
「―― い…一琉…っ？」
突然の俺の行動に、涼センパイは反抗する暇もない。小さな身体を抱きこんだ俺はその唇をそのまま塞ぐ。
「…ちょ…っ…何して―― …ぁ…ふ…」
ムリヤリねじ込んだ舌で音をさせながらキスすると、ぎゅっと腕を掴んだセンパイの手の力が少しづつ抜けていく。
屋上の手すりにセンパイの身体を押し付けて２人でしゃがみこむ。それから俺はそのままシャツのボタンに手を掛けた。
「…ぃ…やって…も…う！い…ちるっ…」
口ではイヤと言いながらも、全然抵抗しない涼センパイ。
それはオッケーってことだよな…？
俺は都合のいい頭で勝手に解釈をしながら、首筋にキスを繰り返す。指先で固くなった胸の突起を弄ると、センパイはいつもみたいに甘い声を上げ始めた。
「ふぁ…ん……や…ソコ…っ…イ…イっ…」
いきなりあんな激しいカップルの行為を見せられて、昼間だって言うのに自分が抑えられなくなってしまった。
白昼の屋上っていうシチュエーションも手伝って、俺は目の前の涼センパイを他人には見せられない姿にしていく。
「は…ぁ…っ…ん…ぁぁ！や…ぁ！そんなにしちゃ…っ…」
中心の一番気持ちいい所を繰り返し何度も指で責めると、センパイはガマンできずに声を零す。
「はぁん！ヤっ…ダメぇ…あぁぁん！イっちゃ…うぅ！はぁぁん！」
吐き出される蜜が、コンクリートの上に飛び散っていく。いつもならここでやめるけど今日はこれじゃやめられない。
「…あ！」
蜜で濡れた指を、後ろへずらす。いつもとは違うその場所へ指を這わせるとセンパイは泣きそうな声を上げた。
「イヤ…っ…ソコだめっ…こんな…所じゃ…っ」
「…イヤなの…？ホントに…？」
きゅきゅっと指で入り口を押し広げると、センパイのソコはいとも簡単に俺の指を飲み込んでいく。
「すご…ナカ…きゅーって締まってビクビクしてるよ…？」
「や！ぁぁあ！やだっ…あ！動かしちゃっ…やぁぁぁぁ！」
くちゅっと聞こえてくる音。次第に音が規則的になってくると、センパイの声も同じように零れる。
「あっあっあっ…ん…ぅ…キモチ…いい…」
初めて触れるセンパイの中へ、俺はぎゅっと指を押し込む。声のトーンが上がったその場所を何度も繰り返し弄ると、センパイは涙目で俺を見上げた。
「あ…ぁ…っ…も…イイ…の…イきそ…う！…お願…い…イカせて…っ…」
「そんなにイイ…？じゃあ…イカせてあげる…」
俺はセンパイにキスするとその身体を抱き上げる。奥を指で弄んだまま、赤く膨らんだ突起に舌を絡めて唇で吸った。
「ひゃ…あん！」
ビクビクと震えるセンパイの華奢な身体をギュッと抱くと、センパイも俺の首にきゅっと抱きついてくる。
「あ…ぁぁん！も…ぅダメ！い…ちるぅ…イイっ…も…イク…ぅぅ！」
ビクンと痙攣するセンパイの中心が弾けて、蜜が飛び散る。ビクンビクンと波打つセンパイの中が熱くなって、俺の指を締め付けてくる。
「…一…琉ぅ…」
俺の名前を呼びながら、涼センパイは聞こえないくらいの小さな声で俺に囁く。
「…して…いい…のに…」
小さく聞こえるセンパイの声。そんなお願いされたら、もうガマンできない。
だけど…
―― このまましちゃったら、抑えが効かなくなりそう……すごい欲しい…けど…
自分の中でどっちを選ぶかぐるぐる葛藤しながら、俺はセンパイにキスした。
もう俺だってどうにもならないくらい反応してて、このまましないでいたらヤバい状態になってる。
センパイはいいって言ってるんだから、しちゃったってたぶん問題ない…。ないけど…。
１度してしまったら、キリなく欲しがってしまいそうで怖い。今だって時々仕事中なのに襲いたくなって、俺はおかしいんじゃないかと思うことがある。
そこまでで止めておけばそれを理由に自分を抑えておけそうな気がして、俺はどうしてもセンパイに最後まで出来ないでいた。
「―― ダメなら…いい…じゃ……してあげる…」
俺の心の中が読めたのか、センパイはクスッと笑ってシャツをはおる。それから、俺の首筋に軽くキスを落とした。
「ん……っ…」
センパイの暖かい舌が自分のそこに触れると、思わず声が出てしまう。
あそこまでしといて、何も出来ないなんて俺ってサイテー…。なのにセンパイはこんなコト…してくれるし…
「……きもちい…？」
ちろっと見上げて、俺に確認してくるセンパイ。その仕草がめちゃ可愛くて、もうそれだけでイッちゃいそう……
「…は…ぁ…っ！セ…ンパイ…すごい…イイ…よ」
聞こえてくる音の感覚が速くなって、俺の呼吸も荒くなる。喉の奥に吸い込まれるような感覚に堪らなくなって、俺は一気に上り詰めていく。
「ぅ…あ！でちゃ…うよ！」
「ん…ん！」
コクンと聞こえるセンパイの喉の音。顔を上げてはぁっと息をつくセンパイを俺はぎゅっと抱きしめた。
「……ゴメン……怒ってる？」
「……え…？」
「―― 俺が……最後までしないから……」
情けなさそうに言う俺に、涼センパイはクスクス笑う。笑いながら俺にキスすると小さな声でこう言ってくれた。
「…怒ってたら、こんなコトしないって」
ペロリと耳朶を舐めながら、囁かれる言葉に俺はクラクラした。
「…こんなにキモチ良かったの…初めて……」
―― もーっ…そんな事言われたら、したくなっちゃうし……
ホントにセンパイには敵わない。絶対に俺の心の中が読めてるんじゃないかと思う。
「―― 帰る？もうちょっとここに居る？」
甘えた声でじゃれてくるセンパイの髪を撫でて、俺は困ったように笑う。
「―― もうちょっと…２人で居たい…かな…」
その言葉を聞いて、嬉しそうに笑うと抱きついてくる。それがまた可愛くて、ドキドキしてしまう。
―― どうすっかなぁ……
いつまでもこのままじゃ、いつか涼センパイだって愛想尽かすだろう。要は俺がちゃんと自分をコントロールできりゃいい話なんだから。
屋上から青い空を見上げてそんな事を考えながら、俺はセンパイの背中を抱き寄せた。
encounter
ＥＮＤ
