「諦められないから。一琉のコト―― 」
オレの言葉に、一琉は驚いたような表情をしてみせる。
「別れるなんて…やっぱり無理だって解ったから」
やっぱり変わったのは、オレの方なのかもしれない。
こんな風に、恋なんて気持ちに執着するような。
一人の男だけに、夢中になってしまうような――
■ Chap 34 ： Assignation（密会)
「…はぁ……」
パタンとドアを閉じると、一気に力が抜けた。それと同時に、ものすごい睡魔が襲ってくる。
一緒に住んでた時はあんなふうに抱かれた後はすぐに眠ってしまってたから、今すぐにでもぐっすり眠れそう。
ふっと目を上げた先の奥のベッドでは、光希が戻ってきたオレに気づきもせずに寝込んでる。
―― 思いっきり飲ませたからな…
ちょっとやり過ぎたかもと思いながら、ベッドの脇まで行って寝てるところを覗き込んでみた。
そのままそこへ腰掛けると、しばらく光希を眺めてみる。
寝てるところは昔と全然変わってなくて、いつの間にあんなに性格が悪くなったのかと思う。
光希はそれがオレのせいだって言うけど、そんなことを言われても困る。
―― そもそも、オレを捨てたのはオマエの方じゃねぇかよ…
そうやって何度も口に出しかけたけど、そのたびにそれを引き止める自分がどっかにいて。
―― そんなこと、今更言って何になる
光希に文句を言うなんて意味ないし、今のオレにはそれを口に出して過去を確かめる必要なんかない。
そんな事よりも、もうオレの事は諦めて欲しい。
こんな風に一琉の事をエサにして、オレの事を思い通りにして、光希は何が楽しいんだろう？
オレに好かれてないって解ってるクセに。
「―― …あ」
不意に腕を掴まれて、オレはビクリと肩を上げる。
考え事をしてたら、いつの間にか光希が目を覚ましたらしかった。
「―― なんだ、考え事か？」
ゆっくり起き上がって、光希はオレをみてニヤリと笑う。
「寝込みを襲ってもよかったのに」
まだアルコールが残ってるのか、キャラじゃないセリフを吐きながら光希はオレを抱き寄せた。
一琉に抱かれた後で光希に抱かれるのはホントはすごくイヤだけど、ここで嫌がったら変に勘ぐられるだけだ。
オレは何食わぬ顔で、光希にされるままになって、ベッドに引き込まれた。
いつもみたいに、オレのことなんて考えないで、光希は自分のしたいようにしてくる。
こっちが無表情でも、そんなことおかまいなし。
「なぁ…」
「―― ん…？」
抱かれながら、俺はさっき考えていたことを光希に聞いてみる事にした。
「オレの事―― 抱いてて何が楽しい？」
「―― あ…？」
光希は行為を止めて、オレの顔を覗き込んできた。それからふっと笑って、こう言った。
「…そんな事の理由を知りたがるなんて、お前はやっぱり変わったな」
「―― え…？」
言い返されて、驚いたのはオレの方だった。
そんな変な事を訊いたつもりはないのに。
「有栖川がどんな風にお前を抱いてたか知らないけど、昔のお前だったらそんな事は考えなかっただろうな」
「…考えなかった…って？」
言われている意味が解らなくて、オレは首を傾げた。光希はそんなオレの額にキスして話を続ける。
「快楽と感情を一緒に持ち合わせてなきゃ抱かれたくない。って言いたいんじゃないのか？お前は」
意地悪そうに笑いながら、光希はオレの首筋を舐めた。それから――
「自分を愛してくれる男に抱かれることで、自分も幸せになれる。その味を知ったから、快楽のためだけに寝るなんてできない。愛されてないなら寝られないって事だよ」
「愛されてないなら―― 寝れない…？」
光希の言ってることが解らない。オレはそんな事考えてない。
愛とか幸せとかそんなもの―― 欲しいわけじゃ…
「お前が俺といたのは、俺に抱かれたかったから。俺の身体が良かったから。俺もそれは同じ。だけど」
「―― だけど…？」
光希は半分笑ったような表情でオレを見てる。オレはそんな光希から視線がはずせない。
「だけど有栖川は違う。あいつはお前の事本気で幸せにしてやるつもりなんじゃないのか？」
「―― 本気で、幸せって…」
「お前だってそれが解ってるから、あいつから離れられない。違うか？」
「なに―― 言って…」
驚いたように自分を見るオレを光希は呆れたように見た。それから口の端を少しだけあげて、笑った。
「あいつに抱かれてる時のお前の顔見たら、すぐに解った。だから、無性にムカついた」
そう言って、光希はオレに無理やりキスしてきた。
「だから、邪魔したくなった。あんな幸せそうな顔して、お前が有栖川に抱かれてるのが許せなくて」
「邪魔って…許せないって…お前、自分の言ってること、解ってんのか？」
「解ってるよ。解ってるから、こうやってしてるんだろ？」
「お前っ…それじゃ子供の駄々と一緒じゃねぇかよっ…意味が解んねーよ」
自分を捨てて結婚した男に、今更こんな事言われるなんて思わなかった。
なんて言い返していいか解らなくて、オレはもう抵抗するのもやめて光希にされるままになってた。
だけど、頭の中ではぐるぐると考えが渦を巻く。
愛してるから一緒に居たい。幸せになりたいから一緒に居たい。
そんな事、そうやってちゃんと考えたことなかった。
なかったのに、わざわざ光希に言われて、自分がどれだけ一琉を想ってるか気がついてしまった。
―― あー…もうっ……
気がついたって、今のこの状態。オレが嫌がらないのをいい事に、光希はいつもしないようなこともしてくる。
「―― ちょ…やめ…っ……」
オレが抵抗すると、嬉しそうに笑って耳元で奴は笑う。
「嫌がってもどうせいう事聞くんだろ…？」
「―― ん…なっ…」
―― こいつ最低 ……
一琉の事さえなけりゃ、お前の言う事なんか絶対に聞かないっつーの……
だんだん、こんな自分が嫌になってきた。
このまま、こいつのいう事聞く意味があるのかどうか、解らなくなってきた。
―― あーもう…オレもサイテー……
オレの身体をオモチャみたいに弄んでる光希の顔をちらりとみて、オレは目を閉じた。
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夕方、研修が終わった後の会場で、オレは最後になるまで席を立たずに座っていた。
「帰らないのか？」
いつまでも部屋に戻ろうとしないオレに光希はそう言って聞いてきたけど、オレはちょっと…と言って、そのままやり過ごした。
一琉もオレが帰らないのに気がついたのか、そのまま戻らずに待ってた。
「帰らないんですか？」
誰もいなくなった会場。一琉はオレの隣に座って、小さく笑う。
「―― 帰る。用事がすんだらな」
「そうですか。じゃあその用事、済ませてください」
こっちを見て、ニコニコ笑う。オレはそんな一琉を見上げて、ちょっとムッとする。
―― 人の気も知らないで…のんきな奴…
一琉はオレが昨日光希に言われた事を知らないんだから、そんな風に怒ったって仕方ないんだけど。
「昨日と同じ時間に、ホテルの裏の浜辺にいこ」
「いいけど、広いよ？」
「建物から砂浜に下りる階段があっただろ…そこは？」
「了解。じゃあそこで」
ひそひそとものすごい小声でオレは一琉と今夜の約束をする。
別にそんなにこそこそすることでもないのに、それが逆に変に煽られているようでドキドキする。
「―― それじゃ…後で…ね」
「… あ…」
誰も見てないことをいい事に一琉はオレの頬にキスしてくる。
こんな場所でそんな事されたらホントは怒らなきゃいけないのに、その行為がなんとなく嬉しくて、オレは怒れない。
オレがそう思ってる事を見抜いたのか、一琉はくすっと笑って俺の頭を撫でる。
「―― じゃあね」
そのまま会場を出て行く一琉の背中をオレはずっと眺めていた。
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「…ん…っ……あ……」
砂浜のすみの遊歩道の橋の下。
ちょっと影になってる場所で、オレは小さく声を上げた。
「…はぁ…っ…んふぅ…っ……や…ぁっ気持ちい…ぃ…っ」
身体の感じるトコロを一気にせめられて、立ってるのもままならない。
「センパイ…かわいい……」
一琉のそんな声にも感じてしまって、耳朶までカァっと熱くなってくる。
「…あ…あぁぁぁっ…や…も…ダメ…ぇ！あっあっあっ……！」
「ん…イイよ…イッちゃっても…」
くすっと笑う一琉の笑い声。ちゅくちゅくと音が聞こえて、そのまま唇を塞がれた。
「んっ…んんんーーーっ…！！」
キスされたままイカされて、身体中の力が抜ける。
「も…ダメ……立ってらんない…よぉ…」
「気持ちよすぎて…？」
「ん…ん…だって…昨日よりすごい…」
「そう…？でもセンパイも昨日よりすごいエッチだよ…」
そう言って笑いながら、一琉は目を細めた。それから……
「―― 俺にも…して？」
「…して…欲しい…？」
「…うん…すごく…」
一琉からそんな事言ってくるなんて、めずらしい。でも、ちょっと嬉しい…
オレはそのまま膝をついて、一琉の中心にそっとキスした。
「―― ん…」
―― ひさしぶりに、するかも……
一琉にしてあげるのはホントに久しぶりで、なんだかちょっと頑張ってしまう。
するのはちょっと苦手なのもあって光希には絶対にしなかったけど、一琉にはしてあげたいって思ってしまうから不思議だ。
「…は…ぁ…っ……セ…ンパイ…すご…いよ…」
「…ん…ぅ…きもち…ぃ？」
「ん…も…俺イきそ…」
はぁっと荒くなる一琉の吐息。膝をついて中心を奥まで含んでる俺の髪を撫でながら、声をあげる。
「う…ぁ！も…ダメ…イク…っ…！！」
「だいじょうぶ…？痛くない？」
「うん…平気…」
背中の砂地がちょっとひんやりして、ほてった身体にちょうどいい。
きゅっと足を持ち上げられて、俺はビクンと反応してしまう。一琉はそんな俺の反応を見て、ゆるく笑う。
「…ぁ…ん…」
焦らすみたいに自分の中心をオレの中心に撫で付けて、一琉はクスッと笑った。
「…欲しい…？」
「…ほ…しぃ…よぉ…」
「…じゃあ…おねがいして…？」
軽く啄む様なキスをして、一琉はオレに行為をせがむように言ってくる。
「…も…おねがぃ…はやく挿れ…て…」
目の前の一琉の首に抱きついて、オレは自分のものじゃないみたいな声で強請ってみる。
「…一琉ので…いっぱいイかせて……」
オレのそんなおねだりに一琉は嬉しそうに笑う。
「涼―― …」
笑ったまま、一琉はオレの頬をそっと撫でる。それから、ゆっくり唇を塞いだ。
「…愛してるよ―― ……」
その言葉に、トクンと鳴るオレの心臓。
やっぱりそうなんだ。
オレは……
「…オレも……あいしてる……」
我ながら重症だと思う。
前はこんな事絶対に言えなかったのに。
自分の中に入ってくる一琉を受け入れて、俺はそのまま目を閉じる。
「…ふぁ…あ…ん！あぁぁっ…はぁ…っあはぁぁん！」
「…涼―― 」
場所のコトも、仕事で来てる事も忘れて、ただ快楽に身を任せる。
今まであったことも、今の状態も全部忘れて、目の前の一琉のことだけ考えて―― ……
「あーあ…」
２人でくっついて座って、海を眺める。肩を抱き寄せてくれてる一琉の腕にもたれて、オレは小さくため息をつく。
「―― どうしたの？何か…イヤだった？」
オレのため息の理由が解らないからか、一琉は心配そうにこっちを覗き込んできた。
オレはそんな一琉を見上げて、クスッと笑う。
「…そうじゃなくってさ…自分に呆れた」
「…え？なんで？」
「うん…昨日さ……」
オレはそう言って、昨日光希と話したことをそのまま一琉に話して聞かせた。一琉はそれを黙って聞いてた。
「だから、オレは一琉から離れられないんだってさ。で、あいつは嫌がらせしてるって訳」
「…はぁ……」
一琉はふぅんという顔をして、ちょっと眉間にシワを寄せた。
「…有村先輩って、そんな事考えるんですね」
「…オレも、正直ちょっとビックリしたけど…光希がヤキモチなんて……ぅぷ！」
オレが話してる途中で、一琉はいきなりオレの鼻をつまんだ。つままれたほうのオレは、息が詰まってしまう。
「いきなり何すんだよっ…」
つままれた鼻を撫でながら自分を睨むオレに、一琉は拗ねたような顔をして見せた。
「…いや…だって…センパイが……有村先輩のこと…光希…って」
「―― あ…？ああ、そんなことか……」
その言葉に、オレは目をぱちくりさせてしまう。まさか、そんなことで？
でもそれがおかしくてクスッと笑ったら一琉はオレを真剣な目でじーっと見てくる。
「そんなこと？じゃないでしょ。俺にはすっごく気になるんだからっ」
「…そうか……ごめん…」
この頃はずっと有村じゃなくって光希って呼んでいたから、つい口に出てしまった。
ふぅっと息をつくオレの髪を撫でて、一琉はオレに質問してきた。
「どうして、逢いたくなったの？」
「ん…？」
「もう逢わないって、センパイが言うから俺も頑張ってた。けど、こんな風に逢ったら、また離れられなくなる…」
「そうだな…それは、そうかもな」
「そうかもって…」
「そうかもしれないけど、仕方なかった。って言ったら？」
あっけらかんと答えるオレに、一琉は呆れた顔をした。それから、はーっとため息をついて返事を返してきた。
「そんなの答えになってないでしょ。こんな風になるなら、逢わない方が良かったんじゃないの？」
「こんな風にって？」
「こんな風に、離れられなくなるなら。やっぱり離れられないって解っちゃうなら…」
「だから？だから逢わなければよかったって、後悔してるって事？」
そうやって聞くオレを、一琉は困った顔で見た。
半分は図星なのだろう。一旦は逢わないと決めたのに、こんなに簡単に元に戻っちゃ何の意味もない。
しかも、帰ったらまた逢えなくなる。それなら逢わない方がいい。
そんな事は解ってた。
解ってたから――
「後悔するくらいなら―― もう逢ったりしない」
オレがそういうと、一琉は悲しそうに笑う。
「じゃあ…どうして？」
その言葉に、迷わず答えるオレ。
「諦められないから。一琉のコト―― 」
オレの言葉に、一琉は驚いたような表情をしてみせる。
「別れるなんて…やっぱり無理だって解ったから」
やっぱり変わったのは、オレの方なのかもしれない。
こんな風に、恋に執着するような。
一人の男だけに、夢中になってしまうような。
あんなに一生懸命頑張って、嫌なことも辛いことも悲しいことも我慢したのに、バカみたいだ。
たぶん今のオレは、この世の中のどんなものよりもマヌケな気がする。
でも、マヌケでもバカでもいい。
光希のいう通り、オレは、快楽が欲しくて一琉に逢いたいわけじゃない。
こうやって一緒にいるだけでも、幸せって思える。
ただそばに居られれば、それだけで満たされる。
幸せがどんなものか口じゃ説明できないけど、それはきっとこんな感情なんだろうと思う。
「ねぇセンパイ…」
きっぱり言い切ってじっと自分を見るオレに、困ったように笑う一琉。
長い指が頬に触れて、耳元の髪をかきあげる。
そのまま背中に腕を回してゆるく抱き寄せると、オレの耳元でこう言った。
「―― 駆け落ち…しちゃう？」
冗談だって解ってても、思わず頷いてしまいそうな自分が怖い。
でもオレも、それに素直に返すことにする。
「…いいよ…する…？」
いたずらっぽく見上げてみたら、一琉も目を細めて笑ってた。
こんなの、久しぶりだ。
ホントに…
「―― なぁ…一琉」
「うん？」
「オレと居ると、幸せって…思う？」
その質問に、一琉はちょっとビックリした顔をした。オレがそんなこと訊くなんて思って居なかったのだろう。
でも、しばらくしてものすごくにっこり笑って答えを返してきた。
「―― センパイがそうやって訊いてくれるだけで、俺は幸せ」
「…ふぅん…」
そっかぁ…と海をみながら答えるオレ。一琉はそんなオレの髪を撫でたまま、ちょっと迷い口調で訊いてきた。
「取り返しても…いいのかな」
「―― え…？」
「…やっぱり…ちゃんと自分のものって―― たとえ相手が有村先輩でも、俺は主張した方が…いいのかな…って」
「… 一琉…」
一琉は海からこっちに視線を移すと、躊躇いがちに小声で言った。
「なんか…やっぱり悔しくて。センパイが有村先輩のこと、名前で呼んでるんだって思ったら…」
―― そこか…
一琉も有村も、なんとなく悔しいと思う視点がずれている気がする。まぁ、細かくは気にしないことにするけど。
「主張してみてもいいけど。どうすんだ？」
「…それは―― 思い浮かばないんですけど…」
「そんな事したら、４課行きがダメになるかもだぜ？いーのか？」
「…いや…あの…」
オレがそうやって訊いたら、一琉は変に口ごもった。
―― なんだ、何かあるのか？
目を細めてじーっと見ていたら、一琉は小さな声でこう言った。
「―― 俺…異動願い出したんです」
「 へ…？」
「…もう、４課には戻らなくてもいいので、ずっと特殊捜査部でいいですって、三登木課長に……」
「―― …」
そんなの、初めて聞いた。そんなこと、オレは一度も聞いてない。
「…センパイと…一緒に居たかったから……あ、いや、それだけじゃなくて、あそこの方が、いろんな仕事できるし。だから…」
一琉が一生懸命いい訳するのをオレは黙って聞いてた。聞いてたけど、なんか視界が…
―― ウソ…オレ、泣いてる…？
なんで泣いてるのか解らない。解らないのに、勝手に涙が―― ……
「―― バカ…」
一琉はバカだ。
絶対に世界一、バカでアホでマヌケだ。
４課に居れば、キャリア扱いでいつか絶対に偉くなれる。あそこはそういうところなのだ。
そんなところからうちみたいな部署に出向させられて。それなのに、なんでわざわざオレが居るからってだけの理由で、自分から『左遷してください』なんて言っちゃうのか。
「もう…っ…お前なんか……っ」
大嫌いだ。って言いたいけど、もう上手く喋れない。
一琉がオレのためにそこまでしてくれてたって知って、オレは――
「お前なんか……」
「―― センパイ」
「…なんだよっ」
「…俺の事…好き？」
そんなの聞かなくても解ってるだろーが。なんでこのタイミングで聞くんだ。
「好きだよっ…イヤになるくらい…」
怒りながら答えるオレを見て、一琉はふふっと笑う。
「そう…じゃあ、頑張れるかも」
「―― あ…？」
「だから、有村先輩と。俺戦わなくっちゃいけないし」
「―― 当たり前だろ！戦って、オレをちゃんと―― 」
「…ちゃんと…？」
「…う………」
ニヤリと一琉が笑った気がした。自分からここまで言っちゃうなんて、今日のオレはどうかしてる。
「ちゃんと、取り返せよっ…バカ一琉っ！」
半泣きの顔で、オレは一琉を睨んでみたけど全然効果なんてないだろうと思う。
一琉はそんなオレを笑って見つめて、ゆっくり抱き寄せた。
「―― センパイ…大好き……」
―― もーダメだ
抱きしめられたら、涙がボロボロ出てきて止まらなくなった。
こんなにまで想われてたのに、オレは全然気づいてなかった。
なのに、一琉はそれを一言も言わずに、オレの変なプライドに付き合って――
「オレだって…大好きだよ…」
もう、そんなことしか言えなかった。
こんなに泣いたら目がはれてバれるかもしれない。でももういい。
オレが泣き止むまで、一琉はずっと抱きしめてくれてた。
結局部屋に帰ったのは夜明け前で、もしかしたら、光希も変だと思ったかもしれない。
―― 帰ったら、桐羽になんて言おう…
変な意地を張るからだ。
きっと桐羽にはそう言われてしまう気がする。
部屋に帰って、オレはベッドで帰ってからの言い訳を考え始めた。
Assignation
END