「僕が勝ったら、涼センパイのことは諦めてくださいっ！！」
「ひっ…聖っ…このバカ！！オマエ何言って―― ！」
叫ぶ聖の体を引き寄せて、慌ててその口を塞ぐ。
でも光希はそれを見て、いつものようにフッと笑った。
「面白いことを言うな。いいだろう、その勝負受けてやろう」
―― 何なんだ…この状況は・・・
■* Chap 36 ： Versus （対決）
「新人戦…ですか？」
持っているファイルを両手で抱え、聖はきょとんとした顔でオレを見た。
「そう。各課で選ばれた奴が１ヶ月間、確保率を競うってやつ。うちはお前しか居ないから、自動的に参加決定だけどな」
「え、ええーーー。いや、でも、あの」
「桐羽がもう書類出しちゃったらしいから、ま、頑張れよ」
「そんな、僕ムリですっ」
聖は泣きそうな顔で、捨てられた子犬のようにオレをじっと見上げた。
―― む〜っ・・・・
確かにオレも、聖には"新人戦"で他の奴と確保率を競うなんて無理な気がする。
そう思って、桐羽に頼んだんだけど――
『それは無理』
ときっぱり断られた。桐羽的には、無理でも最下位でも恥をかいてもそれには出てもらわないと、って事らしい。
オレ的には、出てもサイテーな結果なら出ない方がマシだと思うけど…
「オレも出来ることは協力してやっから。な」
「―― ハイ・・・・・・」
ファイルをテーブルに置くと、聖はがっくりとうなだれてイスに座る。
オレはふむ…と考え込みながらそんな聖を眺めた。
「聖、いる？」
休憩室のドアがカチャリと開いて、そこから入ってきたのは桐羽だった。
桐羽はがっくりしている聖の様子を見て、困った顔でため息を吐く。
「なに？新人戦の話？」
「…そう…今ちょうどその話してたとこ・・・」
ふーっと息を吐き、オレは取り出したタバコをくわえる。
「やっぱムリって…思うんだけどさぁ…」
そうやって言って聖を見るオレを、桐羽は目を細めて睨んできた。
「何甘いこと言ってんの。涼がそんなんだから、聖が『ダメな子』扱いされちゃうんだよ？」
「そりゃそうだけど…性格で向き不向きがあるだろ…」
「ダメダメ。本店じゃ涼と有村の後輩対決ってみんな噂してるんだよ？それで出ないなんて、言えるわけ無いでしょ」
「―― 僕やります！！」
突っ伏していた机から、いきなりガバッと起き上がる聖にオレはちょっとたじろぐ。
くわえていたタバコに火をつけるのをやめ、聖と桐羽を見比べた。
「…な…何だオマエ…いきなりやる気になって・・・」
引き気味のオレをキッと見て、聖はキュッと唇を結んだ。
桐羽はそんな聖をニコニコ…というかちょっとニヤリと笑いながら見ている。
「涼センパイのために、僕絶対に１位になってみせます！！」
―― いや…それはきっとムリなんじゃないかと思うけど・・・・・
さっきまでのあの落ち込みようはどこへやら。聖はくるりと身体の向きを変え、確保グラフを見始めた。
「うふふ。いい感じ？」
「お前なぁ・・・・」
有村を引き合いに出して聖を焚きつけるなんて桐羽らしいけど、それはどうなのかとも思う。
そんな風に考えている俺に、桐羽はそうだ、と思い出したように言う。
「明日、本店に行ってきて。聖と２人でね」
「―― 本店？なんで」
「新人戦の説明会。有村と園近君も来るみたいだから、ケンカさせないように、気をつけてね」
「ケンカ…？」
「そう。前に聖を本店に連れてったとき、聖が園近君を殴っちゃったじゃない。グーで」
「…ああ…そーいや・・・」
―― そんな事もあったな・・・・
その時は、なんでそんな事になったのか深くは聞かなかった。
理由は何となく予想がついたし、自分自身が他人に構ってられる状態じゃなかったからだ。
「とりあえず、鉢合わせしないようにしときゃいいだろ。朝からか？」
「１０時から。本店の会議室でやるらしいからよろしくね」
「おう…解った」
―― 本店かぁ・・・
一琉が異動になってから、本店にはあまり行ったことがなかった。
別に何があるってわけじゃないけど、有村も一琉もそこに居ると思うと何となく行きづらくて、足が向かなかった。
でも、明日は仕事だし、そんな事も言ってられない。
グラフを見上げて今までの自分の成績をメモっている聖を横目で見ながら、さっき吸うのをやめたタバコを取り出す。
―― ま、いっか・・・
ふっと小さく息をついて、オレはまた聖を眺めるのだった。
+ ＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋ ++ ＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋
+
「うるさいこのチビ！」
ケンカさせないように、と昨日話した所なのに、結局２人は顔を合わせた途端、口喧嘩を始めた。
―― まるで小型犬のケンカだな・・・・
目の前でキャンキャンと吠えるように言い合いをする２人を、オレは呆れて眺めていた。
「お前の成績で良くやる気になったよな、バッカじゃないの」
フン、とバカにしたような園近の笑い。オレもそれに多少ムッとしながら、でも黙って見ていた。
聖はそう言われて一瞬手が出かかったけど、ぐっと我慢してプイと横を向く。
「バカで結構。ルキこそ、いつも有村先輩に面倒見てもらってばっかりで全然自立してないって聞いたし。人のコト言えないじゃん」
「なにーーー？！」
ガッと聖の肩を掴む園近。
正直、ものすごく程度の低いケンカだと思うけど、本人たちは真剣らしい。
止めずにオレが眺めていたら、園近の後ろから光希が現れた。
「―― よせ。何回同じ事したら気が済む」
光希にそう言われて宥められ、園近は聖をギロリと睨む。聖も負けずにそれにキッと睨み返した。
「なんだ…本当にやる気なのか？」
半分からかう様な口調で、光希は聖にそう聞いた。
聖はそれを聞いて、しばらく黙って光希を見上げていた。
それから――
「有村先輩にお願いがあります」
「―― ほう、何だ」
―― おい、ちょっと待て
ケンカ相手はルキだけじゃないのか。
聖が光希になんのお願いがあるっていうんだ。
それから３秒後、いきなり切り出した聖の言葉に、オレのそれまでののんびり外野モードが吹き飛んだ。
「僕が勝ったら、涼センパイのことは諦めてくださいっ！！」
―― はぁ？！
光希をじーっと見上げる聖。オレはいきなりの展開に開いた口が塞がらない。
でも黙って見てる場合じゃない。聖を止めないと―― …
「ひっ…聖っ…このバカ！！オマエ何言って―― ！」
オレは聖の体を引き寄せて、慌ててその口を塞ぐ。
でも光希はそれを見て、いつものようにフッと笑った。
「面白いことを言うな。いいだろう、その勝負受けてやろう」
―― 待て待て待て！何なんだ…この状況は・・・
なんで聖が光希に『諦めてください』なんだ。
それを一琉が言うなら解るけど、聖がいうのはおかしい。
そんな事を考えて、焦るオレの後ろから誰かの声が――
「へぇぇー。春比奈頑張るじゃん」
「とっ…戸倉！バカ！お前まで…」
オレの後ろに、後輩を連れた戸倉が立っていた。しかも、奴は楽しそうにニコニコ笑っている。
―― 何か、誰かと似てる気が・・・・・
その様子が、誰かに似ている気がするのにピンと来ない。
でもそんな事は今はどうでもいい。
「仕事に私情を持ち込むな。前言撤回しろ！」
「イヤです。僕もう決めましたから。有村先輩だって、いいって言ってくれてるし」
「―― そういう問題じゃ…っ…」
言葉に詰まって、引きつりモードのオレに、横から戸倉が口を挟んでくる。
「いいじゃん。そういう目標があった方が張り合いあるじゃん？」
「張り合いって何だよ！だいたい何でお前が―― 」
「もー。そういう細かいこと気にしない。春比奈と園近はそれで対決する訳ね。ははーん。面白くなりそうじゃん？」
ヘラヘラと笑いながら、戸倉はオレの肩をポンポンと叩く。
「ホラホラ、説明会始まるから。入った入った」
結局戸倉に丸め込まれ、オレはそのまま会議室に押し込まれる。
光希はただ笑ったまま席に座ってしまい、その隣で園近が不満そうに何か言っている。
「―― アホだなオマエは…」
はーっとため息を吐くオレ。聖はそんなオレに、駄々っ子のような顔をしてみせる。
「だって…僕が勝たないと涼センパイは有村先輩に負けちゃうんですよね？そんなの悔しいし――
」
「…だからって…オレのコトを引き合いに出すな・・・」
「すみません…つい口に……」
「まぁいいけど・・・・」
こんな事、一琉が聞いたらどう思うんだろ。
というか、何て説明すりゃいいのか。
そんな事を考えていたら、またため息が出てきた。
オレは説明会の資料を流し読みしながら、一琉になんて説明するか考え始めるのだった。
+ ＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋ ++ ＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋ +
「それで？聖はもうやる気になっちゃってるんですか？」
夜。
仕事が終わって帰った部屋で、オレは一琉に今日の出来事をそのまま話した。
話を聞いた一琉はビックリもせず、笑ってその話を聞いてた。
「―― まぁ…それで聖がやる気になってるなら、俺はいいですけどね」
一琉はクスッと笑いながらながら、ビールを開ける。
「はい。これ涼センパイの」
開けたビールをオレに渡して、一琉は自分の分も開ける。
「もし聖が負けたとしたって、それはそれで。最終的には俺と有村先輩の問題だし・・・・」
「そう…だけど・・・」
コクコクとビールを飲み干し、一琉はニッコリ笑った。
「俺が、聖と組みましょうか？」
「―― へっ？」
一琉は本店なんだから、聖と組むなんて出来っこない。そう思っていた俺に、一琉は笑って説明した。
「新人戦、来月でしょう？だったら、来月から、また出向でそっちに行けばいいし。どうです？」
「出向って。そんなカンタンに―― 」
ふふふ、と笑って、一琉は２本目を開ける。
「戸倉先輩のする事ですから。何でもアリなんですよ」
「ああ…そっか…」
今回の辞令で戸倉は課長になった。だから、有村がしたのと同じように、『一身上の都合』で人事を操作することもできる。
「涼センパイのメンツがかかってるんだから、聖には１位になってもらわないと」
空になったオレの缶を、新しいものと取り替えながら一琉はフフッと笑う。オレはそんな一琉を怪訝な顔で見返す。
「…１位って。聖のあの状態で、そんな成績出せるわけが・・・・」
「大ー丈夫ですって。俺に任せてください。ね？」
「―― うー……」
オレも一琉の実力は解っているから、不可能じゃないかも知れないと思う。だけど――
「ホントに大丈夫なのか？もし負けたらどうするんだよっ」
「負けませんよ。涼センパイがかかってますから」
「オレは賞品じゃないぞ」
「わかってますって。でも大丈夫だから。俺に任せて―― 」
コトンとビールの缶を置く一琉。
オレのビールを持つ指をきゅっと包んで缶を手放させる。
「もうその話はおしまい……こっち向いて―― 」
「―― ん……」
ちゅくっと、熱を帯びたキスの音。
そのまま、胸の中心に指先が触れる。
「―― や…ん…一琉…っ…」
「お風呂上りのセンパイ…久しぶりだから―― も、ガマンできな…い…」
オレが部屋に戻って来たのは３日前。戻ってきてから、２人でこうやってゆっくりするのは今日が初めてだった。
それまでは一琉がずっと残業で、こんな風に２人で飲んでる時間がなかったからだ。
「…んん…っ…ぁ…ん…一琉…っ…すご…いよ…？」
―― こんなのでされたら―― どうなっちゃうんだろ・・・・・
なんとなく触れたそこは、もう大変な事になっていた。いつもの一琉だったら、こんなコトないのに…
キスをしながらそこへ指を伝わすと、一琉は目を細めてオレを見た。
「…う…ん……」
くちゅっと音を立てながら、一琉は舌を絡ませてくる。いつもと同じキスなのに、何だかすごく感じてしまう…
それに、声もいつもより色気のある濡れたコエだから余計に―― ・・・
「…ねぇ・・・・・して―― ？」
一琉はオレの指を自分の中心にきゅきゅっと擦り付けて、そのままキスする。
「…ココで―― イカせて…よ…」
舌先でオレの舌をぺろりと舐めて、細めた目のまま、ゆるく笑ってみせる。
「…ふ…ぅん…っ・・・」
キスしてゆっくりソコを包むと、身体の奥がズキンと疼く。
ピチャピチャと音を立てて舐めると、ビクリと舌の上で熱塊が震える。
そんな反応に、自分まで濡れてきてしまって、思わず声が・・・・
「ぁ…ふぅ…っ…ん…はっ・・・・・」
きゅぅっと喉の奥で柔らかく締めると、一琉ははぁっと艶味を帯びたため息を零す。
「…セ…ンパイ…も……俺…イキ…そ・・・・・」
髪を撫でる一琉の指の動きがどんどん速くなる。
それにあわせて、オレの動きも速くなって――
「…ん…んんっ！…イク…よ！」
そのまま一琉のを受け止めて、丁寧にソコを舐めていく。
そんなオレを一琉は小さく笑ってみてる。
「も、いいよ…ホラ……おいで―― ・・・」
そのまま身体を引き寄せられて、ぎゅうっと抱きしめられた。
「・・・・こっちから…イカせてあげるね・・・」
「ひ…ぁぁぁん！ふあぁぁ…っ…」
一琉の指が、ソコを滑る。
両手で、一度に両方を責められて、オレはコエを上げてすぐに限界に達してしまう。
「も…も…おねが…い…挿れて…ぇっ・・・・ほしい…の…」
オレのそんな『おねだり』に一琉はクスッと笑う。
「今日はおねだりが早いね…舐めてたら感じちゃった…？」
「……ん…もぅ…ガマンできなぃ…はやく…ぅ…っ」
ズキズキと、甘い疼きがソコを襲う。ぎゅっと目を閉じた瞬間、身体をビリビリと電流が走った。
「ん！あぁぁぁぁ！ひゃぁぁぁん！気持ち…い！！」
奥まで一気に埋めこまれる熱塊に身体が弓なりにしなる。
そのまま、何度も責められてイカされて、夜明け前までそこで重なり合った。
ベッドに行って眠る前にもう一度抱かれて、気が付いたらカーテンの外がうっすらと明るくなっていた。
「ねえセンパイ」
「ん…？」
「もし、これで聖が１位取って、勝ったら―― 」
「…うん…勝ったら……？」
その聞き返しに、一琉はしばらく黙っていた。
それからふふっと笑って見せて、オレの頭を撫でた。
「ねぇ…勝ったら――なに？ 」
「…うん…勝ったら…言うよ」
「何だよ…今じゃダメなのか？」
「あとで。今じゃなくてもいい…から」
「じゃあ言うなよっ」
オレのそんな言葉を聞いたのか聞いてないのか。一琉はそのまますーっと眠ってしまった。
―― 勝ったら…なんだ？？
一琉が何を言いたかったのかよく解らなかったけど、オレもだんだん眠くなってきた。
―― まぁ…いいや・・・
勝ってからのお楽しみってコトで、何を言いたかったのかは聞かないことにした。
目の前にある一琉の指に自分の指を絡ませて、その顔を眺めていたらだんだん眠くなってきた。
「…ふぁ・・・・眠…」
目を閉じたら、もうそのまま、自分の意識もすぅっと消えていった。
Versus
END
