「何だよっ…また何か変なコト考えてるだろ」
「考えてる…かなぁ？」
クスッと笑う声。
一琉は自分のビールをテーブルに置くと、俺の持っていたビールも無理やり机の上に持っていく。
「答えてよ…俺と有村先輩、どっちが好きか」
■* Chap 14 ： ratio(比率）
「ん？」
カタンとあけた郵便受けを覗き込む一琉。
「あ、これセンパイにですよ」
さっさと靴を脱いで部屋に上がったオレにそのハガキを渡す。
「何だ？…あん？公安局捜査部…同期会？」
眉をしかめて文面を読んでいる俺の横に立って、一琉もハガキを眺める。
「センパイたちってこんな風に案内が来るんですね。俺たちなんか、やるから来たい奴は来いよーで終わりですよ。メールで」
へーと言いながらリビングに入っていく一琉をチラリとみて、オレはもう一度ハガキを眺める。
「つーか、今までこんなハガキ見たことないけど」
「んな訳ないでしょう。興味ないからって捨てちゃってたんじゃないですか？センパイのコトだから」
「う…」
そう言われるとそうかもしれない。と言うよりも、意図的に避けていたのかも知れない。そこへ行けば、見たくないものをイヤでも見る羽目になる。それがイヤで、今までは同期会なんて行く気も起こらなかった。
「どーせ行かねぇし。いらねーよ」
ポイッと放かったハガキを一琉は笑いながら拾う。
「そんなに即決しなくったって。たまには行けばいいのに」
「ヤだよ。面倒じゃん」
そう言ってソファに座り込んでタバコを吸い始めるオレの方を見て、一琉はフフっと笑った。
「ふーん、面倒だから行かないんだ。そーなんだ」
「あ？んだよ、それ以外に何があるっつーんだよ」
「いーえ。別に」
笑いながらそのまま夕飯の支度を始める一琉を小さく睨んでいつものようにフイッと顔をそむける。
―― 解ってんなら聞くなよな、っとに…
テーブルの上に置かれたハガキを、オレはぼんやりと眺める。
文面の最後に書かれた何人かの幹事の名前の中に書かれている”有村光希"という名前。嫌になるくらいに何度も何度も呼んだその名前は忘れたくても忘れられない。
そこに顔を出して奴と顔を合わせたからといって、何が変わるわけでもない。お互い”昔の恋人に久しぶりに会った”っていう感覚で終わっていくだろう。
裏切られた事は今でも怒れるけれど、じゃあ嫌いなのかと聞かれたらそうだとは答えられない。逆にそうだから顔を合わせたくないし、昔のコトを思い出したくないのかも知れない。
煮え切らない思考がグルグルと回り始めて、ふーっと長いため息をついてみる。
―― でもなぁ……
そんな事を考えながらも、キッチンで夕飯を作っている一琉の背中を見ながら自分の中になんとなく『もう大丈夫かも』という気持ちがある事に気がつくオレ。
確かに有村の事はまだ多少は気になるけれど、この頃はそれどころじゃない。今のオレは一琉の事で頭が一杯で、どうかしちゃったんじゃないかと思う時もある。
その効果なのか何なのか。今まではたまに有村の夢とか見たのに、最近は全く見なくなった。
「…行ってみてもいーかもな…」
うーん、と膝を抱えてソファに座っていたら、目の前に夕飯が運ばれてきた。
「お待たせ。さ、食べましょー」
一琉はニコニコ笑いながら、いつものようにオレに箸を渡す。
―― たぶん…大丈夫だな…
本人は全然気がついてないだろうけど、オレの中で一琉は100％の存在になりつつある。それがいいのか悪いのかは別として、もうそうなっちゃってるからどうしようもない。
心の片隅の１％か２％くらいはまだ有村の存在もあるだろうけど、でももう無いに等しい。
メシを食いながら、オレはじーっと一琉の顔を眺めた。一琉はそんなオレを怪訝な顔で見返してくる。
「…どしたんですか…そんなじっと見て。俺何かしましたっけ？」
「ううん…そうじゃないんだけどさ」
「ないんだけど？」
「いい。大したことじゃないから。さっさと食って飲もーぜ。なっ」
「…はぁ」
どーしたんだろ、という顔をして、一琉はしばらくこっちを窺っていた。オレはそんな一琉の前でフツーにメシを食い終わった。
でもこの後、１００％の存在を実感する出来事が起こるなんて、オレはまだ知らずにいた。
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風呂上り。いつもの様に２人でまったりビールを飲む。
ほとんど飲んでしまった空の缶を振っていたオレの隣に座って、一琉は新しいビールを差し出す。
「ねぇ涼センパイ」
「ん？」
しばらく沈黙が続いた。その後、一琉は思い切ったようにこう聞いてきた。
「俺と有村先輩、どっちが好き？」
「―― はぁ？」
その質問に答えられないわけじゃないけど、それよりも先にどうして一琉がその質問をしてくるんだろう？
「誰に聞いた？その話」
「有村先輩との事？」
「そう。オレ、お前にその話した事ないよな」
「ないですよね、たぶん」
「ねぇよ。なのになんでそんな質問してくるわけ？」
「いいじゃないですか。なんとなーく耳にはいっちゃったから、知ってるだけですよ。でも、肝心なのはそれじゃなくて」
そこまで言うと、一琉はお得意のゆるい笑いを見せた。その笑い顔を見ると、オレは条件反射みたくドキドキしてしまう。
「何だよっ…また何か変なコト考えてるだろ」
「考えてる…かなぁ？」
クスッと笑う声。
一琉は自分のビールをテーブルに置くと、俺の持っていたビールも無理やり机の上に持っていく。
「答えてよ…俺と有村先輩、どっちが好きか」
首筋に落ちるいつものキス。それが合図みたいに、トロトロと溶け始めるオレの思考。長い指が背中を伝って、どうしようとしてるか解ってるのにそれを拒めない。
「…ゃ…って…一琉…っ…やだ…」
「言ったら止めてあげる。どーする？」
オレが絶対に素直に答えないのを見越して、イジワルな声で一琉は囁く。
「…ね…言ってよ…」
「―― や…だ！そんなん言えるか…っ」
なんでそんな事言わされなくちゃなんないんだ。っていうか、どーしてお前は酔っ払うとそうなるんだよっ…
―― もーダメ！そんな顔して見るなっ…
こういう時の妙に色気のある一琉の表情にオレはとても弱い。その顔で見つめられると、何をされても許してしまう。
「…ちょ…イヤって！一琉…コラ！」
「イヤなら答えてよ。そっちのほうが簡単じゃん？」
「どっちもイヤだっつってんのに！…ひゃ…あ！」
慣れた手つきで、一琉はオレの中心を探り当てて撫でていく。その行為にビクビク震える身体を抱くとクスッと笑う。
抵抗もできずにシャツまで脱がされて、オレはもう言いなり状態。鎖骨からツツッと流れる指が、胸の突起の上で止まった。
「可愛い…もうこんなにして…」
一番気持ちいい所を解っているかのようにクリクリっと動く指に、反射的に声が出てしまう。
「ぁああん！やだ…ぁ…ソコ…いや…ぁ…っ」
指をペロリと舐めると、一琉はその指で赤く綻んだ突起を弄る。濡らされて敏感になった所をキュキュッと擦られて、腰がビクンと跳ねた。
「ふふ…こっちも？欲しいの…？」
胸から腰へとうつる指先。熱に浮かされた身体は耳朶を甘く噛まれただけでも感じてしまって、もう抑えが効かない。
「ぁ…あ！イっ…イイ…よぉ…っ…も…やぁっ…」
両手で先端から一番下まで擦られて、身体中がビクビク跳ねる。右手の中指がいやらしい音を立てて先端の分かれ目の上で細かく震えるたびに、オレは蕩けそうな声をあげた。
一琉はオレの声を聞きながら、イキそうになるとそれを止めて首筋にキスしたり胸板の赤い突起をクリクリと撫でてくる。すごくイキたいのに、そうされると別の所に意識が行ってしまって上り詰めてるのにまた引き戻されてしまう。
「…イキたい…？」
解ってるクセに、それをイジワルく聞いてきた。オレはまだ残ってる"センパイ"な部分で一琉に言ってみる。
「…だれがっ…んなコトある訳―― ひ…ぁ！！」
また中指が細かくリズムを刻みながら動き始めた。ガマンできなくて思わず腰が……動いちゃい…そう…
「ちゃんと言えたら、ものすごく気持ちよくしてイカせてあげる…ホラ…イキたくてビクビクしてるよ…？ココ…」
「…ぁ…ぅっ！ひあぁ！もうイヤ…っ…おねが…い！」
ダメ！もう耐えられないっ…このまんまじゃ、中途半端にイッちゃう…そんなの…っ
ふわりと浮くような感覚に何度も襲われる。でも、出してしまわないようにオレの先のちょっと下を、一琉の指がきゅうっと締める。
「言ってみ…？どっちがイイ？」
―― Ｓ一琉っっ！サイアクーー！
オレの性格を見越して、こんなイジワルにしてくる一琉をキッと睨んで見上げた。だけど、目が潤んでて上がりそうな息を零してるこんな状態じゃ、きっと効き目なんか全然ないだろう。
「言ってくれなきゃ、もっとイジメちゃうからね」
ぐいっと持ち上げられるオレの身体。一琉は軽々とオレの身体を膝に乗せると、そこを舌で――
…
「…あぁぁぁ！やぁぁっ！や…めて！ダメそれっ…気持ちぃ…よぉっ！」
さっき散々苛められて赤く濡れた胸の突起を、一琉の舌が濡れた音を立てて包んでいく。時々吸い上げるように唇で弄びながら両方の突起を蹂躙しては、ちらりとオレの顔を見上げてくる。
「好きなんだね…ココ、舐められるの」
クスッと笑いながら、一琉はオレの頬にキスした。
「あっ・あっ！やだ！ソコっ…」
中心の両手がまた動き始める。もちろん、胸の突起を唇と舌で弄んだまま……
「い…やぁぁ！も…ぅ許して…ぇっ…おねがい…ちゃんと…言うからぁ…」
”ものすごく気持ちよくして”イカせて欲しくて、オレは腰を揺らして一琉におねだりするみたいにしがみついた。
「…ん…じゃあ言ってみて？どっちがイイ？」
「…ん…ぅ…ぁんん！はぁっ！」
まだ負けず嫌いな部分が残っているのかすぐに言えなくて、オレはきゅっと指を噛む。
「…い…ちるの方が…イイ…っ…めちゃくちゃ…イイよぉっ…」
涙をポロポロ零しながらそういうオレの下唇に軽くキスすると、一琉はまたクスッと笑う。
「はいよく言えました。じゃあごほうび」
ゆるく滑っていた指が急に激しく動き始めると、抑えていた声が零れだす。
「あぁぁぁぁん！あ・あ・っ！はぁん！イイぃ！も・イキそ…う！」
いままで貯めてた何かが一気に身体中を巡って、頭の先から抜けてく。背中に電気が走ってるみたいに、ビクビク震えちゃう…
「い…ちるぅ！も・イカせて！…あぁぁん！」
「イイよ…ほら…イッちゃえ…」
ちゅぱちゅぱと突起を苛められながら、中心の全部を激しく擦られる。先端の指がいやらしい音を立てて、あふれ出てくる蜜を絡め取っていく。
「イヤ…っ！あぁぁ！！やぁぁぁ！イク…っ…イッちゃう……っっ！」
身体中がしびれて動かなくなって、頭の中が真っ白になっていく…。
「…すごい可愛い…大好きだよ…」
一琉のそんな甘い囁きを聞きながら、その首に抱きつくオレ。
「…ば…かぁ…何で…こんなイジワル…」
呼吸が戻らなくて、息が続かない。そんなオレの背中を撫でながら一琉は小声でこう言った。
「…だって…苛めるとセンパイすごく感じるみたいだから……」
―― なんだそれっ…そんなの、いつ気がついたんだお前は…
ちょっと呆れながらもオレは雰囲気に流されて、そんな一琉の告白に言葉を返してしまう。
「あいつといた時は……こんなコト…なかった…のに」
有村と一緒に居た時は、苛められて感じるなんてコトなかった。それに…
「こんなに…コエ…出さなかったし…」
一琉にこうやってＨな事をされると、女の子みたいに声がでてしまう。べつに意識してやってるわけじゃなく、自然に出るから止めようがない。
それを聞いて、一琉はぎゅうっとオレを抱きしめてくる。
「もー…そんなコト言われたら…毎晩したくなっちゃうから…ダメだって…」
あんまり可愛い事言わないで…と耳元に聞こえる一琉の声。本音を言えば、そんな声にも感じてる自分が居る。
そうやって考えてみると、多分オレは本当に一琉のことが―― …
好き…なんだと思う。
だけどもったいないから、それを言うのはこの後のお楽しみにとっておく事にした。
+ ＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋ ++ ＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋ +
「それで？結局行く事にしたんですか？」
次の日の朝。テーブルの上にほかられたハガキを眺めて、一琉はオレに聞いてきた。
「…うん…行こう…と思ってんだけど…」
同期会に行けば、絶対に有村と顔を合わせるだろう。もし一琉がそれをイヤだって言うなら、オレは行くのをやめても良かった。
我ながら重症だと思ったけれど、何となく一琉の同意が欲しかった。ちらりと見上げると、ふふっと笑ってヤツはオレを見た。
「いいよ？怒らないから。だってしばらく行ってないんでしょう？」
「…え…でも…さ…イヤじゃないの…？」
心配そうに聞くオレを一琉はふっと抱き寄せた。腕を腰に回しながら身体を抱き寄せて、ヤツはちゅっとおでこにキスしてくる。
「イヤに決まってるでしょ？だってもし行ったら、有村先輩と顔合わす訳だし」
「じゃあダメなんじゃん」
怒った口調でそう言って見上げたオレに、一琉は笑ってこう言った。
「ダメだけど、許してあげてもいいよ？可愛くお願いしてくれたらね」
―― 来た…
やっぱりまた一琉のペースにはめられて、オレはちょっとムッとする。これじゃ完全に主導権を持ってかれてるじゃねーか。
なんだけど、そうやって言われるとイヤって言えない……
「行っても…いい？」
上目遣いで”おねだり”口調でそう言ってみた。そこまでする必要ないような気がしたけど、オマケもつけておく。
「…ね」
ちゅ、っと頬にキスしてもう１回見上げたら、奴は目を細めてゆるく笑った。
「……やっぱ弱いなぁ…センパイのそれ…」
「…え？」
「そうやってお願いされたら、何でもいう事聞いちゃうよ…きっと」
一琉のその言葉を聞きながら、オレは心の中で返事を返す。
―― オレも…同じだけど…
こんな状態じゃ、一琉に言うコトだったら何だって聞いてしまいそう…
クスクス笑って抱きしめてくる一琉の腕の中で、オレはきゅっと目を閉じた。
ratio
END
