「ダメだよ…して欲しいならちゃんと言わなきゃ」
膝の上に座らせたオレを見上げて、一琉はクスッと笑う。
「言ってみてよ…何をして欲しいの…？」
オレはキュっと唇を噛んで、しばらく黙ったままでいた。一琉はそんなオレの手首を掴んで――
「…や！ちょ…っ！」
抵抗する暇もなく、オレの両手首は赤いリボンで縛られてしまった…。
■* Chap 23 ： Frustration(欲求不満)
「…眠…」
書類を前に、閉じていく瞼を必死に開けようと頑張るオレ。今日もいつも通りに朝まで寝かせてもらえなかったせいで、仕事もままならない。
ここのところ毎晩毎晩ほとんど一琉の部屋で寝起きしていて、自分のベッドで寝たのがいつだったか思い出せない。
イヤならイヤって言ってやればいいのに、いざコトが始まるとオレは何もいえなくて一琉の言いなり。一琉もそれを解っていて、逆らわないような方法をちゃんと心得てる。
「涼センパイ？大丈夫ですかぁ？」
うとうとしているオレを向い側から聖が心配そうに覗き込んでくる。
「また一琉センパイにひどい事されてるんですか？」
「……ひどいって…何だそれは…」
「えー…だって、清人センパイが、一琉センパイが上機嫌の日は涼センパイは絶対眠そうだって…」
「……まぁな…つーか今も超眠ぃ…」
オレはあまりの眠さに、机にうつ伏せた。
「あ〜ダメだもう。今日は確保やめとくか…」
「え…っ…やめ…ですか？」
「おう…オレはもう行く気力が無い…」
「…えと…あの、いいならいいんですけど…いいんですか？」
「…いい。今日は特別。お前はファイルの整理でもしとけ」
「…はい…じゃあ…そうします」
ちらっと見上げると、聖はおっかなびっくりな顔をしてオレを眺めていた。何か不満かと聞き返そうかと思ったが、それも面倒くさくなってそのまま目を瞑る。
―― ダメだこのまんまじゃ…何とかしなきゃ…
そんな事を思いながら、オレはそのまま眠りに落ちた。
オレが目を覚ましたのは、店が始まってかなり経ってからだった…
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「なぁ」
「…ん？」
もう慣れっこになった一琉の膝の上。オレはビール片手に奴にある提案をしてみた。
「毎日すんの、やめねーか」
「…やなの？毎日するの。寝不足になっちゃうから？」
一琉は小さく笑って、こっちを見上げてくる。したいクセに、という顔をして髪を撫でながら首筋にキスしてきた。
「イヤならやめてもいいよ？俺はね」
「…俺はねって何だよ…オレだって別に毎日したいわけじゃねぇ…」
「…そう…？」
ふふんと笑う一琉をキッと睨むとオレはビールをぐびぐびと飲み干す。空になった缶をテーブルの上にほかると、そのまま一琉を押し倒した。
「…でも今日はする……」
「…したいんじゃん…やっぱり…」
慣れた手つきで、一琉はオレの腰を抱き寄せる。それからそのままいつもみたいにキスしてきた。
「…ぁ…ん……」
キスされながら、身体の中心を撫でられるともう我慢できなくなってくる。自分がこんなに堪え性がなかったなんて、一琉に抱かれるまでは全然思ってなかった。
「や…ぁ…っ…一・琉…ぅ…だめ…ぇ」
身体の芯がジンジン疼く。ちょっと触られただけでいつもこんな調子で自分でもおかしいんじゃないかと思う。でも……
「ん…あ！……いぃっ！！も…っとぉ！」
こうされたくって仕方が無い。されてないとどうにかなりそう…
だから、このままじゃダメになる。ちゃんと節制しないと。
毎日なんてしなくったって平気だ。いままでずっと独りだったんだから、別に毎晩抱かれなくったって、なんてことない――
大丈夫…毎日こんな風に抱かれてなくたって、オレは全然平気――
でも、それが思わぬことを思い知らされる事になるなんてその時のオレは知りもしなかった…
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その次の日から、一琉は今までとは１８０度変わってオレに触りもしなくなった。オレがちょっと触っても、小さく笑って『寝不足になっちゃうよ？』と笑うだけ。
オレも自分から言い出しただけに、何で？と不満も言えず、そのまま引っ込むしかない。
何もなくたって平気と思っていたのに、オレは独りで寝るのも苦痛になってきて、時々一琉の部屋へ行っては一緒にベッドで寝てみたりもした。
そこまでしても一琉はオレに何もしない。『おやすみ』って言って、そのまま寝るだけ。
そんなこんなで、一琉がオレになにもしなくて半月が過ぎた。
ある晩。
いつもより多めに飲んだオレは、その勢いで一琉の部屋へ行った。
ちょっとふわふわした頭でドアを開けると一琉は読んでいた雑誌から目を上げて、オレを見た。
「―― どうしたの…？」
何も言わずにベットに座り込むオレを見て、一琉は不思議そうな顔をした。オレはそんな一琉に抱きつくとそのままキスをする。
酔ってるせいなのか、久しぶりにキスしたせいなのか解らないけど、身体が熱い。
「―― しなくてもいいなんて、ヒトコトも言ってない…」
「…うん…そうだね」
「…じゃあ何で…」
駄々っ子みたいに抱きつくオレを、一琉は上手にあやしながら腕の中に抱き込んでいく。オレはそんな一琉にされるまま、ベッドの上で何も着てない姿にされていく。
「ダメだよ…して欲しいならちゃんと言わなきゃ」
膝の上に座らせたオレを見上げて、一琉はクスッと笑う。
「言ってみてよ…何をして欲しいの…？」
オレはキュっと唇を噛んで、しばらく黙ったままでいた。一琉はそんなオレの手首を掴んで――
「…や！ちょ…っ！」
抵抗する暇もなく、オレの両手首は赤いリボンで縛られてしまった…。
「どう…？…ドキドキしてきた…？」
両手を縛られただけなのに、もうどうしようもなく”したく”なってる。半月してないだけなのに、もう何ヶ月もしてない気がしてこれ以上我慢なんてできそうにない。
一琉はそんなオレに何度もキスを繰り返して、首筋を撫でる。
「ふふ…したい…？」
「…う…ん…したい…すごいしたい…よ…」
「…ふーん…じゃあ、ちゃんとお願いしなきゃね。どうしたら気持ちよくなるのか、ちゃんと…ね…？」
「……う…っ」
髪を撫でながら、一琉は目を細めてオレを見る。こんな時だけ見せるゆるい笑い顔を見せながら、黙り込むオレに早く言って、と催促する。
「言わないと、今日もしないで寝ちゃうよ？」
「…それはヤダ…っ…」
「じゃあ言って？」
しばらく一琉の顔を眺めて、そのあとその唇に自分からキスした。今までのオレならどんなに相手を好きでも絶対にこんなコト言わない。言わないけど、一琉には逆らえない…
「…いっぱい…挿れて…っ…指で撫でて……めちゃくちゃに…してっ…」
そう言った後、またキスする。恥ずかしくて顔が見られないから、キスしてれば顔を見なくて済む。そう思ってたのに…
「ダメ。ちゃんと顔を見せて」
一琉は頬に手をやって、真っ直ぐにオレを見る。オレは恥ずかしくてまともに一琉の顔なんか見られない。
「やだもうっ…いいから…早く…」
「…わかった……」
くすっと笑うと、一琉はオレをそのまま抱き上げてキッチンに連れて行った。
「…いつもと違う場所の方が、気持ちよくなるから…ね？」
縛られたままの両手を流し台に付かされて、そのまま後ろから弄られる。気持ちいいトコロを一気に責められて、オレは隣に聞こえちゃうんじゃないかと思うほどコエをあげてしまう…
「…い…やぁ！も…だめぇ！おかしくなっちゃう…っ！あぁぁぁっ！やぁぁっっ…！」
奥まで突かれて、両手で中心と乳首を弄られると、もうどうしようもなくなってくる。自分の手が自由にならないのも手伝って、快感がよけいに増していく。
「……おかしくなるまでしてあげる…毎日…ね…」
一琉の低くて甘い声が耳に響いて、意識が一瞬遠くなった。
オレは、気が狂うんじゃないかと思うほど抱かれながら、今さらながらに自分が一琉無しじゃいられない身体なんだと思い知らされてしまった。
たった半月なのに、こんなに乱れるほど欲求不満になって、自分から一琉を欲しがって――
―― オレ……もうダメ…かも……
きっと、もう手遅れだ。
いままでの『独りでも平気な自分』にはもう戻れない。
一琉無しの生活なんて…耐えられない…
クラクラと消えそうな意識で身体を任せながら、オレは気持ちよさに酔いながらきゅっと目を瞑った。
Frustration
END