accomplice

「戻らないって、お前…」
戸倉先輩は俺の顔を見て驚いたような顔をする。でもその後クククと笑った。
「瑠璃沢か…」
「……え…」
―― まだ何にも言ってないんだけど…
困った顔をする俺を見て、先輩はこう言った。
「顔に書いてある。大好きですって」

　■*　　Chap 22 ：　　accomplice(共犯者)　　

「一琉、今ヒマ？」
出勤していつもの缶コーヒーを飲んでいる俺のところへ、涼センパイが書類を抱えてやってきた。
「…ヒマ…っていうか、何でです？」
「ん…？」
ちょっと考えてから、センパイは書類を振り回してこう言った。
「本店行かねぇ？ヒトリで行くのかったるくってさ…」
「…はぁ…で、俺に付き合えって事ですか？」
「そう。お前ヒマそうじゃん」
「んな事ないですよ。桐羽センパイに頼まれてる書類の整理終わってないし…」
「いーだろ。ヒマなんだって。だから行くの。解った？」
「……」
キッと俺を見上げて、センパイはきゅっと口をへの字にした。その表情から、一緒に行きたいっていうのがすっごく解って笑える。
「…一緒に行きたいって、素直に言えばいいのに…」
クスッと笑う俺の顔を不満そうに見ると、センパイはこっちに持っていた書類を投げてよこす。
「アホな事言ってんじゃねぇよ」
といいつつ、顔がちょっぴり赤い。
今日の朝、中途半端に可愛がってあげたから、きっと欲求不満なんだろう。そういう時は、いつもより近寄ってきて話すからすぐ解る。
「よしっと…じゃあ行きますか…」
書類をまとめると、俺はそのおでこにチュッとキスした。
「―― バカ」
そう言って怒りながらも、ちょっと嬉しそうな顔をするところがまた可愛い。
―― …ヤバいなー……今日何も無しでいられないかも…
隙があったら、襲っちゃいそうな自分が怖い…
そんな事を考えながら、俺はセンパイの後を追った。

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「よっ！有栖川ちゃん久しぶりじゃん！」
本店に着いて、昔居たフロアをうろうろしていたら後ろから戸倉先輩の声がした。
「ひさしぶりっす」
軽く手を上げる俺の肩をポンポンと叩いて、先輩は喫煙所に行こうと誘った。
「今日朝から1本も吸ってなくてさー、最近課長がうるさくて、吸いにくいんだよなー」
それで俺を連れて行くのもどうなんだろとか思いながらも、喫煙所へついていく俺。涼センパイは俺が戸倉先輩と話し始めるのを見て、別のフロアへ行ったようだ。

「どうよ。”特殊取締部”は」
「ああ…まぁまぁ面白いっすよ…裏仕事もそこそこだし」
「へぇー…噂じゃお前、瑠璃沢と張り合ってるらしいじゃん。違うの？」
「張り合ってるっていうか…涼センパイが俺に合わせて手加減してんじゃないですかね…報告書とか書くのが面倒だから…」
「ふーん…手加減ねぇ…」
戸倉先輩はタバコの煙をふーっと吐きながら天井を眺める。それからこっちに向き直ってこう言った。
「お前、いつ戻ってくんの？」
「え？」
「だって出向なんだから、いつかはこっちに戻ってくんだろ？」
「…ああ…そう…ですよね…考えた事なかったけど」
「…ほう…」
俺の答えを聞いて、先輩は目を細める。自分の思っていた答えとは違っていたらしく、しばらく言葉を探していた。
先輩が何か言いかける前に、俺は自分から口を開いた。
「―― 俺…もう戻らないつもりでいるんですけど…」
「…は…？」
タバコを吸う手を止めて、先輩はじーっとこっちを見た。

「戻らないって、お前…」
戸倉先輩は俺の顔を見てふーんという顔をする。でもその後クククと笑った。
「瑠璃沢か…」
「……え…」
―― まだ何にも言ってないんだけど…
困った顔をする俺を見て、先輩はこう言った。
「顔に書いてある。大好きですって」
「えぇ？」
「解りやすいもんお前」
「…何言ってんですか…んなわけ―― …」
「だって陸前が言ってたもん。『一琉クンは、可愛い顔がタイプなんだねー』って。朗らかに」
―― っていうか…そこつながってたのかー…ま、でもそうか…同期だしな…
「この前飲んだときにさ、あれこれ話してくれてさ。それだけで２時間終わっちまってさ」
楽しかったわーと他人事のように笑う戸倉先輩を見ながら、俺は返す言葉がない。
―― …油断もすきもない……
桐羽センパイが何を話したのか、だいたい想像はつく。きっと、言わなくてもいい話まで話したに違いない。

「でも、いいんじゃないの」
「…へ…」
「瑠璃沢にはさぁ、お前みたいな奴がそばにいてやった方がいいじゃん？」
「―― はぁ…」
「俺も応援してやるよ。結婚式には呼べよ。な？」
―― いや…それはありえないけど…
目をぱちくりさせつつ、俺はなんとなく戸倉先輩の言葉を聞いて安心してしまった。
それと同時に、涼センパイを今すぐ抱きしめたい衝動が湧き上がってきて心臓がバクバクいい始める。

「…あ…」
ふと目をあげると、フロアの向こうのほうで涼センパイが手招きしていた。
「んじゃ…俺行きます…」
「おう…お幸せに」
ニヤリと笑う戸倉先輩に軽く会釈して涼センパイが待っている方へ歩く。
今すぐ抱きしめたくって、おもわず腕が伸びてしまいそうになる気持ちを抑えながらセンパイの前に立った。

「やけに楽しそうに話してたな」
「そうですか？んな事ないでしょ…普通に話してただけで」
「…あっそ…」
無表情に返事をする涼センパイの隣を歩きながら、俺の頭の中はどうしようもない考えで埋まっていく…
―― こんな所で…ヤバイっつーのに……
ダメだと思いながらも、フロアを抜けて人気の少ない場所まで来た。俺は涼センパイの腕をつかんでそばの会議室へ引っ張り込んだ。

「ちょ…え？！一琉…おい…っ」
いきなり暴挙に出られたせいで、涼センパイは普段と違ってかなり慌ててる。ちょっと前まで使ってた慣れた会議室の扉の鍵を閉めて、そばの机にそのままセンパイを座らせる俺。
「…ごめん…も…ガマンできな…い」
「や…！ちょ…待って…コ…ラ！」
いくらなんでも、本店の会議室っていうのはNGなのか、涼センパイは必死に抵抗した。でも、一回キスしたらビックリするほど大人しくなった。
「…ばか…ぁ……夜まで…我慢しようって…思ってた…のに…」
すっごい可愛い声でそうやって言われて、もう俺は周りなんか見えなくなる。
いつもならゆっくりまったり雰囲気を楽しむトコだけど、今はそんな事言ってられない…
「…ん！…ぁ…あ！」
キスで濡れたセンパイのソコを慣らして、半分ムリヤリに自分をねじ込んでいく。でもそれを嫌がりもせず受け入れちゃうセンパイ。

「―― したかった…？」
「………うん…」
もっと…と急かされて、理性も何もかも無くなってく。ここが本店だろうが、会議室だろうが、そんな事は関係ない。
いつもより何倍も快感が増してる気がする。センパイの声も心なしか甘い…

場所もわきまえず、行為に耽って時間も忘れた。
気がついたらもうお昼過ぎてて、廊下から人の声もする。

「帰ろっか…」
身体が元に戻るまで、しばらくだらだらと抱き合ってから帰り支度を始める。
センパイはちょっとだるそうに俺の肩に頭をくっつけて、眠い…と呟く。俺はそんなセンパイの背中を子供にするみたいにポンポンと叩いて、部屋から出るよう促した。

そんな風に本店での”ハプニング”は終わったんだけど……

まさか…

それが『誰か』に見られてたなんて、その時の俺は思いもしなかったのだった…

accomplice

END