えぇぇぇ〜？！
あの涼センパイがっ・・・・・

別に覗きとか、そーゆーのに興味があるとか、そんなん全然ないけどっ。
ないけど、あまりにキョーレツで、身体がいう事聞かない。
その光景に僕の目は釘付けになってしまった。

「…あ、しまった」
仕事を終えて部屋に帰る途中、僕は読みかけの本をロッカーに忘れてきたことを思い出した。
「めんどくさいけど、気になるしなぁ・・・」
もう後ちょっとで読み終わるところだから、気になるといえば気になる。
「ま、いいか」
面倒だけど気になって寝れないのもイヤなので、店に本を取りに行くことを決めた。





音をなるべくさせないように裏のドアを開けると、事務所の方から桐羽センパイと課長の声が聞こえた。本店がどうのこうのって言ってるみたいだ。
―― もうすぐ会議あるからなぁ・・・成績のことで何か話してるのかな…？
来月は本店で半年に一度の成績発表会議がある。
うちは涼センパイと一琉センパイのおかげでそんなに大変って事はないけど、後進育成の話題になったらヤバイかもしれない。
なんていったって、こんなドジでお間抜けな僕がいるから、きっとウチの新人教育はなってないって言われるにきまってる。

とか、しょうのないことを考えながら、僕はロッカーへ向かった。その時・・・。



「……ぁ…ん！…やだ…ぁっ…」
身体にゾクッとくるような、色気のある声が僕の耳に聞こえた。

―― なに？今の……
声のした方向は休憩室だった。
もう誰もいないはずのそこから、声が聞こえるわけがないのに―― …

僕はこっそりとノブを回してその中を覗いてみた・・・・・

そしたら――









「イ……ヤっ…！ここでそんなコト―― …ぁああ！はぅう…っ…」
テーブルの上には可愛い女の子―― じゃなくって・・・

―― り…涼センパイ…？！

えぇぇぇ〜？！
あの涼センパイがっ・・・・・

別に覗きとか、そーゆーのに興味があるとか、そんなん全然ないけどっ。
ないけど、あまりにキョーレツで、身体がいう事聞かない。
その光景に僕の目は釘付けになってしまった。




フリルヒラヒラなメイド服を着て、センパイは泣きそうな顔で向かいの誰かにお願いしてる。
「…や…ぁっ…やめない…でぇっ」
言葉には出来ないようなとんでもないカッコで、センパイは自分でスカートの裾を捲り上げた。
「…も…っとぉ…もっとして…っ」

「して…じゃなくて、してください…でしょ？」
泣きながら何かをねだる涼センパイにキスしながら、そうやって言ってるのは一琉センパイだった。
一琉センパイは涼センパイのメイド服のボタンを外すと首筋にキスした。

「ホラ、言ってみ…？してくださいご主人様って」
そういわれて涼センパイはしばらくうつむいたままだったけど、ちょっとしてから一琉センパイの顔を見上げた。

「…いっぱい…してください…ご主人さま…っ」
「いいコだね…じゃあ、何がして欲しいか言って？」
「…う……っ…」
涼センパイは一瞬ムッとした顔をしたけど、一琉センパイにあちこち触られてるせいかすぐに表情が緩んだ。
「言わなきゃ、今日はこれでおしまいだよ…？いいの…？」
「…や…ダメ……っ…そん…なのイヤ…っ…」
「イヤなら言って？俺にどうして欲しいの？」
くすっと笑う一琉センパイ。笑いながら、涼センパイのはだけた胸のボタンの間に顔を埋めた。
「…ぁ…ああん！いや…ぁ！ダメっ…きもち…ぃ！はぁっ…」
「もっとして欲しいんでしょ？…ホラ…言って…」


―― 一琉センパイて、こーゆーヒトだったのか……
かなりすごい状況で２人のこういう所を見てるだけでもびっくりだけれど、その中でも一琉センパイのその責めっぷりというか、涼センパイの扱い方にはビックリする。
いつものクールで、けっこう凶暴で、ぶっきらぼうの涼センパイの片鱗なんかどこにもない。
そこにいるのは、彼の言いなりになって女の子みたいな声を上げてる涼センパイ。

でもその表情で、涼センパイが一琉センパイに夢中だっていうのがものすごく解る。
一琉センパイを見上げる仕草も、キスをねだる仕草も、ほんとうに女の子みたいだ。
「あぁぁん…っ…一・琉ぅ…っ…ソコっ……」
身体を弓なりにしならせて、涼センパイはきゅうっと目を閉じた。それからはぁっと深く息をつくと、超色っぽい目で一琉センパイを見つめた。


「…ご主人様ので、奥まで…気持ちよくして下さ…ぃ……」
聞こえないくらいの小さな声で、涼センパイは一琉センパイにそう言った。
それを聞いて、一琉センパイも同じように色気たっぷりの表情で涼センパイを見つめ返した。

「…すごい…可愛いよ……愛してる……」
そう言って、涼センパイの腰を抱き寄せる一琉センパイ。２人はキスを繰り返しながら、それを始めた。
「…あぁぁぁん！はぁ…っ…す…ごい…気持ち…ぃっ……や…ん…も…イッちゃ…う…」
「……まだ挿れただけだよ…？そんなにイイの…？」
「んんーっ……はぁん！…だって…ぇ…一…琉のが…すごい…んだも…ん」


涼センパイからそんな言葉が出るとは・・・・
もう僕は自分の状況も忘れて観察しきりだ。これじゃただの覗き小僧だけど、でも目が離せない。


「…涼があんまり可愛いから……俺めっちゃ興奮してる…かも…」
そう言ってる一琉センパイの声にも、あんまり余裕が無い。というか、こういう時は一琉センパイは涼センパイを呼び捨てにしているんだと僕は知った。
―― まぁ恋人同士なんだから…当たり前か・・・
「一…琉ぅ…すき…っ…好き…っ」
涼センパイは一琉センパイに抱かれながら”好き”を連発した。
僕はそれに驚いて、目を大きくした。
―― 信じれられない……涼センパイって、あんなトコあるんだ・・・・
涼センパイがメイド服を着てるってだけでもすごい状況だけど、甘えた声で”好き”なんて何度も言うなんて・・・

―― に…二重人格……？
いや、そういう問題とは違うのかもしれないけど…
とにかく恋をしてる人間っていうのはこういうものなんだな、と僕は実感した。



「…気持ちぃ…？」
心なしか、一琉センパイの声もかなり蕩けてきてるみたいだ。そんな一琉センパイの問いかけに涼センパイは蕩けきった声で応えた。
「ん！…あ…っ…イイ…っ…すごい…イイ…」
ぎゅうっと一琉センパイに抱きつくと、涼センパイはこれ以上ないくらいに甘えた声で言った。
「…もっ…とぉ…もっと…奥まで…挿…れて…くださぃぃ…っ…ご主人様…ぁ……いっぱいくちゅくちゅって…してっ…」








―― あーあ…完全にイっちゃってるなぁ……
２人とも、向こうの世界に完全に行ってるみたいだ。
ここで僕が見てることなんて、絶対に気がついてない。


そう思って、僕が２人を眺めていたら――

「…今日はメイドプレイかぁ…ふーん」
僕はその声を聞いて、心臓が身体から飛び出した…くらいの衝撃が走った。
「きききき…桐羽センパ…イっ？」
「やだなぁ聖。そんなに驚かなくたって。いつものコトだよ？」
「いやあの。そんなに冷静に言われても困りますけども」

慌てふためく僕を見て、何事もなかったかのようにそう言う桐羽センパイ。センパイはいつもみたいに優雅で上品な笑いを見せながらこう言った。
「僕としては、メイドプレイより調教プレイの方が好きなんだけどね。そっちの方が一琉くんがカッコよく見えるから」



―― 意味が解りません

ていうか、２人はしょっちゅうこんなコトしてるのか？
しかもココで？！

僕はもうどうしていいか解らず、桐羽センパイと中のセンパイ２人を交互に眺める。
「ああ、そろそろ終わるみたい。ホラ、閉めて閉めて」
覗いてたのがバレたら涼に殺されちゃうからね〜と桐羽センパイはまた笑った。


「あの…桐羽センパイ…」
僕が情けなさそうな声で言葉を発したら、桐羽センパイはふふふと笑った。
「大丈夫。悪いのは聖じゃないからね。それに、たまにはああいうのも勉強になるでしょ？」
いや、桐羽センパイ。
そうじゃないんですけどーーー！
僕が頭をふると、桐羽センパイはさらに見当違いな事を言った。
「ダメだよ？いくら一琉クンがステキだからって惚れちゃ。彼は涼の"持ち物"だからね。我慢してね」


―― 全然そんな事思ってませんし！
「…いや、あの、…じゃなくってぇ……」
僕は小さな声で、桐羽センパイに言った。
「…この事……僕が見てたこと…２人には……」
それを聞いて、桐羽センパイはハハハと笑った。
「言うわけないじゃない。言ったら、僕がいつも覗いてるのもばれちゃうでしょー？」

―― いつもしてるんですかー！センパイはっ！
もうさっきから、突っ込みの連続だ。心の中でだけど。
にしても、桐羽センパイはなんでこんなに平気そうなのかなぁ・・・・。

実は僕はけっこうショッキングだった。っていうか、さっきから、ずーっと身体が熱っぽい。
２人のあんな”行為”を見たら、さすがの僕も平常心は保てない。
「すいません…もう…帰ります……」
「…ああそうだね、明日も頑張ってね」
「…はい」



ロッカーまで行って本をとってくると、僕は足早に店を出た。




部屋に帰るまでの間、僕の心臓はずっとトクトク鳴りっぱなしだった。
止めようとしても、全然止まらない。それどころか、涼センパイのあの甘い声が頭の中に広がって、さらに心拍数が上がる。
―― ヤダなぁ…もう……
どちらかというとそういう手合いのコトが苦手な僕は、こんな状態に陥った経験があまりない。
だから、自分の中のこんな”欲情”をどう処理していいか解らなかった。

さっき見たものは全部夢で、本当は現実じゃない――
僕は現実逃避して、自分の中の”劣情”を一生懸命打ち消そうとした。




そんな風に戸惑っていると、ふいにケータイが鳴った。
「…誰だ…？こんな時間に…」
ポケットから取り出した画面に流れる相手の名前。

「…はい…もしもし……」
足のほうから上がってくる煽情を抑えながら、僕は冷静に電話に出る。
『もしもしー？聖かぁ？今なにしてんの〜？』
電話の向こうから聞こえる、かなり飲んでる感じの清人センパイの声。僕はちょっとため息をつきながら、いつもみたいに答えた。
「なにって…ちょっと忘れ物したので……店に戻って…帰る途中です」
『へーっ…ヒマか？あのさぁ、いつも行くお店のオンナノコに、いい酒もらっちゃってさー。一緒に飲まねー？』
「飲まねー…って。今お店にいるんでしょ？」
『いるけどもう帰るから！オマエの部屋行っていい？』
「…え……」

一瞬、どうしようか迷った。
こんな状態で、清人センパイと２人でいたら……
別に、清人センパイのコトは何とも思ってないけど、でも、こんな気分で他の誰かがそばにいたら―― ……
息を飲んで、返事を考える。



「わかりました。じゃ、コンビニでなんかつまみ買って帰ります。ついたら、メール下さい」
『りょーかい〜！じゃまた後でな〜！』
上機嫌な返事を残して、清人センパイは電話を切った。僕は深いため息をついて、パチンとケータイを閉じる。



―― なんでこんな時に……



理由は解らないけど、身体が大変な事になってきた。
こんな反応してるのが、清人センパイの声を聞いたからだとは思いたくない。ないけど・・・・・


「……もー…っ……センパイのバカっ…」




コンビニで買い物して、部屋に帰った。
しばらく本を眺めたり、TVを見たりしてたけど、清人センパイからは一向に連絡が無い。
「遅いなぁ……」
ソファでごろんと転がっていたら、そのうち眠くなって、僕はそのまま眠ってしまった。





+-------- + † + ----------+ +-------- + † + ----------+ +-------- + † + ----------+





「…じり…聖っ」
ゆさゆさと揺すられて、はっと目をさますと部屋の天井が見えた。
ふっと視線をうつすと、ソコには清人センパイの顔。

―― あれ…？

いつの間に…？
部屋に入れた覚えないのに。なんで？

でも清人センパイはもらったらしきお酒をグラスにいれて、テーブルの上に２つ並べていた。

「オマエ、メールしろって言ったのにぐーすか寝やがって。管理人に鍵借りたっつーの」
清人センパイは、不機嫌な顔でそういった。

「…なんだ…」
そうだったんだ。
僕はぼーっとする頭でソファに座ると、なんとなく流れでそのお酒をコクリと飲んだ。


「― う…ぇぇぇーーーー！」
何だコレー！すっごい濃いっっ！
「…高アルコールのブランデーらしいぜ？どうだ？」
「そーゆーこと先に言ってくださいよっ！！飲んじゃったじゃないですか！」
「いいじゃん。美味いだろ？」
「美味いとか、そーゆー問題じゃ―― …」
…と叫んでいるうちに、頭がクラクラしてきた。身体が熱くなってきて、ちょっとヘンな気分・・・・

「…あ…う…」
我慢できなくて、僕はそのままソファにばたんと倒れてしまった。
お酒のせいなのか、ちょっと眠ったせいなのか。帰ってくるときに湧き上がってきた”ヤバイ気分”がまた身体の中でムクムクと大きくなってきた。

「―― 聖…？」
寝転んだままの僕をヘンに思ったのか、清人センパイがソファに腰掛けて覗き込んできた。
僕は、自分を見おろす清人センパイに腕を伸ばして―― ……







「…なんだ？もう酔っ払ったのかよ…？」
「………違…う……」
「じゃあ…なんだよ」
「……わかんない…でも…こうしてたい・・・・・」


清人センパイに抱きついたまま、僕は黙ってその背中に腕を回した。


「―― …やっぱ酔っ払ってんだろ…」
「……うん……かもね………でも……お酒にじゃない…よ」
「ふーん……じゃあ、俺が当ててやるよ」










僕の突拍子も無い行動に、清人センパイは困ったようにため息をついてからクスッと笑う。
その後、僕がどうなったかは…また今度。













1st anniversary　SS：nightmare �T

END


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